毎年光禅寺の庭でオキナグサが咲くのを楽しみにしている。斎藤茂吉が愛でた花ということもあるが、うつむいて赤黒い花弁の花がこの季節になると気になる。先日、久しぶりに光禅寺を訪れて驚いたのだが、オキナグサはすでに花を終え、銀色に輝く綿毛になっていた。もっとも、この姿からオキナグサと名付けられたもので、見方によっては魅力がある。いつの頃であったか、高齢のカメラマンから、オキナグサの綿毛を撮りたいが、いい場所がないか尋ねられたことがある。この姿を愛でる人もいるのだと思った。
宮沢賢治に『オキナグサ』という童話がある。話は岩手、小岩井農場の南の山が舞台だ。この話でオキナグサは「うずのしゅげ」と呼ばれる。この地方独特の呼び名だ。二本のうずのしゅげが太陽や雲や風などについて話している。やがて春が過ぎ、銀毛の房になったうずのしゅげのところにひばりがやってきて話すのが、話の主題になっている。
春の二つのうずのしゅげの花はすっかりふさふさした銀毛の房にかわっていました。野原のポプラの錫いろの葉をひるがえし、ふもとの草が青い黄金のかがやきをあげますと、そのふたつのうずのしゅげの房はぷるぷるふるえて今にも飛び立ちそうでした。
そしてひばりがひくく丘の上を飛んでやって来たのでした。
「今日は。いいお天気です。もう飛ぶばかりでしょう」
「ええ、僕たちは遠いとこへ行きますよ。どの風が僕たちを連れていくかさっきから見てい
るんです。」
「こわかありませんか」
「いいえ、飛んだってでこへ行ったって野はらはお日さんの光りでいっぱいですよ。」
うずのしゅげはひばりにさよならを言いばがら、羽虫のように北を指して飛んで行った。