朝の散歩の楽しみは、近所のお宅に庭に咲く、四季折々の花を見ることだ。自分では何の努力もせず、丹精された花壇の花を、横目で見せていただ。時には、そっとカメラを出して、その美しい花をカメラ収める。今年は、春の高温と低温が交差して、花にいい影響を与えているらしく、咲く時期が10日ほど早く、しかも彩りが鮮やかだ。バラの花が庭や玄関、家のまわり中に植えらていて、家を包みこむように咲かせているお宅がある。今年も見事なバラの饗宴を楽しませてくれる。
井上靖の詩集を繰っていると、バラをテーマにした詩があった。バラの花を見ながら、井上の詩の世界に浸ってみる。
旅から帰りて
一カ月の旅から帰って来ると、裏庭の花壇にバラの花が
咲き乱れていた。伸びきった茎の先に、赤と白の花が
花弁をひろげ、寝乱れた姿態を見せている。手入れは行
き届いていたが、まさしく廃園であった。私はいっさい
の旅の記憶を喪っていた。バラ園の中に立ちつくし、ど
こからともなく聞えて来る淡水湖の水の騒ぎの音のよう
なものに耳を傾けていた。
ベランダに置いてあるわずかの植物たちは、約一ヶ月世話をする主人を失う。かわりに私が世話をする。主人のいない植物たちは、どんな気持ちで帰りを待つのであろうか。