木蓮
2020年04月06日 | 花
この春は、何もかもが、生き急ぐようにやってくる。いつもの春なら、順番というものがある。木蓮の花も、本来、桜が散って、自分の出番をわきまえて咲き始める。今年は、桜と競うように咲き始めた。気温の変動もきわめて大きい。5月並の陽気がきたと思うと、今日は北日本に雪マークが出ている。こちらでは、霜注意報、雪崩注意が交互に出ている。咲き始めた木蓮に、霜があたらぬか少し心配である。
山室静の随想「庭先で」に木蓮ついて書いている。
「毎年この白木蓮では悲しい思いをさせれてきた。つぼみがいよいよ大きくふくらんで開きかける頃にきまって霜がくる。すると、一夜で純白の花が茶色によごれて、きたないボロ切れのように垂れ下がってしまうのだ。そんなことが四五年つづいた。それで今年は、いよいよ花の開きかけたときに、大きなつぼみをつけた枝を四五本切りとって、花瓶にさした。ところが皮肉なことに今年に限って霜が来ないのだ。」
山室が書いているように、今年はいかにも霜があたりそうだ。こんなに早く木蓮が咲くこともないからだ。これから、しばらく霜が降りる日は続く。人さまの庭先であるので、大きなお世話と言われそうだが、そんな心配が先に立つ。枝を大きく空に向かって広げ、いっぱいにつける木蓮の花は、いつ見ても圧倒されそうである。
山村暮鳥に、木蓮を歌った「あはれしる」という詩がある。花をひとつ見るにしてもその時代の人の息吹のようなものが感じられる。昭和27年、まだ日本戦後の復興以前の詩である。
木蓮の花が
ほたりとおちた
まあ
なんといふ
明るい大きな音だっただらろう
さやうなら
さやうなら