ご近所で行われている能面打ちのお教室に、ミモロは、ある日、見学に出かけました。
能面打ち歴、半世紀近くという園祇明さんが、自宅のお座敷で、毎月1~2回をなさっているお教室です。
「さわるの初めて・・・」と、能面を初めて手にとったミモロは感激。顔にもかけてみます。
面は、日本の伝統芸能になくてはならないもの。日本全国各地の郷土芸能や神楽などに、古くから用いられています。面をつけることで、鬼や亡霊、動物など人間以外のものになったり、若い女性や老婆などに変身し、物語を演じます。
能面打ちを指導してくださる園さんは、昼間は、クリーニング店のご店主、そして粟田神社の祭りでは、剣鋒の差し手として活躍していらっしゃいます。「能面打ちの先生だって、ずっと知らなかった~」とミモロ。「京都の人って、いろいろやってるんだね~」と、感心しきり。
さて、そんなことを思うミモロの傍らで、園さんは、能面打ちに集中しています。
友禅、西陣織、京漆器、仏壇など分業制が多い伝統工芸の中で、能面は、木材を彫ることから、表面の塗り、そして目や髪を描くことまで、すべてひとりで行うもの。だから、決まり事が多い能面でも、能面師により、微妙な趣の異なりが生まれるのです。「全部一人でするのって、大変そう…」とミモロ。「だからこそ、面白いんですよ…」と園さん。
「え~このお面も全部、園さんが作ったの?」「そうです」鼻にこぶがある老人は、人間を超えた存在の「はなこぶあくじょう」能面の中でも、彫りの深い顔立ち。ひげは、馬のたてがみなどを染めて、一本一本植毛。この世のものではないことをあらわす金色の目や歯も、金属を自分で、加工して装着するそう…。
今回、見学したのは、彫りの部分です。
能面に用いられる木材は、、木曾ヒノキ材を中心に、桂、桐など。木材のそれぞれの面に、鉛筆で、打つ面の型紙などを元にアウトラインを描き、それにそって、荒彫りで、面のだいだいの姿をつくり、それから次第に細部へと彫り進みます。
「これでサイズを測るんだよ~」と使い込んだものさしを持って…。
能面の大きさは、どれも縦20~23センチくらい。「決まってるから、演者によって、顔がはみ出る人がいるんだ~」と思うミモロ。
傍らに並ぶ、彫刻刀の種類は、さまざま…大きく木を削るものから、表面をやさしく削ったり、細部を削るものまで…よく手入れされた鋭い歯の彫刻刀がズラリ…。
彫刻刀の手入れも、能面打ちの仕事のひとつ。道具の状態をみれば、その人の腕がわかるといわれほど、大切な仕事です。
お座敷には、木を削るかすかな音が、響きます。
園さんの手元には、いろいろな彫りの段階の面が…。
「なんになるのかな?」
能面は、横顔も大事…。この獅子口の面は、特に凹凸がはっきりしている面のひとつです。
「あ、耳もある…」そう、能面の多くは、耳がありません。
手慣れた彫刻刀づかいで、次々に彫り進む園さん。「ミモロちゃんも、ちょっとやってみる?」「え~いいんですかー」と、言い終わる前に、ミモロは、園さんの膝の上に飛び乗ります。
「そう、やさしく刀を滑らせて…」「はい…」と、真剣なミモロ。彫刻刀の先から、細かい木くずがこぼれます。
「ほんのわずか削るだけで、面の表情は変わります」とのこと。どこを削るか…それは、経験のなせる技。
しばらく体験させてもらったミモロ。
「なんかずっと息を止めちゃった…フ~」と、あまりに真剣にのぞんだよう。
面の表を彫ったら、次は、裏側を彫り、顔が納まる部分を作ります。「これってお面の特徴だよね~」
彫りの部分が終了したら、胡粉をなんどか塗り重ねて地肌を完成させます。
それが終わると、いよいよ墨で、目や髪、口元などを描きます。
「顔を描くときが、やはり1番緊張しますね」と園さん。木地と比べ、胡粉を塗ると、面は、ふっくらとして見えます。
孫次郎の面の目は、よく見ると、二重瞼。「能面って切れ長の二重瞼なんだ~」とじっと見つめたミモロ。そしれ、目の内側にアイラインを墨で描きます。「わーインナーラインだ~」。そう、現代のメイクアップでも、瞼の内側にアイラインを描くと、外側に描くより、自然に見えます。「それって、もう能面のメイクに使われてたんだ~」そばで騒ぐミモロに、園さんはキョトンと…。女性のメイクなんか知りませんよねー。やはり目力アップには、アイラインが効果的。「クレオパトラもアイランばっちり入れてたもんね~」
「あれ、能面って、まつ毛がない…」そう、能面には、今の女性が憧れるようなカールしたまつ毛はついていません。「ミモロといっしょだ~。目も、小さめだし、まつ毛ない…」「だからいいんですよ…微妙な表情をあらわすのに…」
能面で大きな目と口をもつのは、この世のものではない面がほとんどです。
ミモロが、はじめて覗いた能面の世界…「深い…」と一言。
室町以来、ずっと人々を魅了し続ける能や狂言。「こんど舞台見に行こう…そこで、じっくり能面を見るんだ~」とミモロ。
「ミモロちゃんお疲れ様…お茶どうぞ…」
能面を眺めながら、お茶とお菓子をいただくミモロ。「楽しかった…どうもお世話になりました。ありがとうございます」と、お礼を言って、園さんのお教室を後にしました。
*園祇明(そのよしあき)さんの能面教室に、ご興味のある方は、090-3895-7011にお問い合わせください。
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