ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

サンダルに片手ポケット

2014-11-07 21:58:48 | ジョギング
 『勝手にチャレンジャー』(8月17日ブログ掲載)になって、
4月末に行わた“伊達ハーフマラソン”の10キロコースに出場した。

 朝、家内と二人で走るのとは異なり、
沢山の老若男女に入り交じり、しかも同じ方向をむいて走ることは、
私のテンションを上げるのに十分だった。

それでも、この年齢での10キロ走である。
去年は、5キロしか走っていないのだから、その倍の距離。
「無事完走できるか。」「他のランナーに迷惑をかけたりはしないか。」
などと、ゴールするまで不安と同居しての走りだった。

その反面、あわよくば1時間を切りたいなんて、
大それた目標を心に秘めていた。
しかし、1分7秒のオーバー。
「あの下り坂はもっと速く走れた。」だの、
「なぜ最後にピッチを上げなかったのだ。」などと、後悔しきり。

 しかしである。
1年前に同じ大会で見た、
視覚に障害のある方々と伴走者のゴールシーンに胸を焦がし、
私も10キロを走りたいとスロージョギングを継続してきた。
その成果を確かめることができ、ともに完走した家内と一緒に喜びあった。

何かの事情があったのだろう。
今年、視覚障害の方の走る姿は見られなかった。

 この大会の数日後、私は右肘の手術。
そして術後の手と手首の痺れ、麻痺、痛み。
現職時代からの趣味であったゴルフは、「夢のまた夢」になっている。
ジョギングだけは、医師からオーケーとなり、
なぜか走っている時は痛みが和らぎ、私を慰めてくれた。

 ところで、伊達に来てから気づいたことがある。
それは、どこの地方でも同じだろうが、
伊達も『車社会』だということ。

 人々の一番の移動手段は車。
『ドアツードアは車オンリー』が大勢である。
だから、道を歩く人の姿は、車に比べると極めて少ない。

 主な歩く用途、それは犬の散歩かウオーキングである。
だから、昼日中より朝夕の方が歩く人の姿が多い。
 おかげで、朝のジョギングですれ違い、
「おはようございます。」と声をかけ合ううちに、
一言二言と言葉を交わし、
今ではご近所付き合いをするほど親しくなった方もいる。

 私と同じ年格好の男性と顔馴染みになったのは、
右肘手術後の5月末のことだった。

 家内と私は、10キロの完走に少々自信が芽生え、
朝のジョギングの距離を少しだけ伸ばすことにした。

 彼との最初の出会いは、
私たちが初めてジョギングしながら駆け上った、
ちょっと小高い農道だった。
伊達のなだらかな丘陵地帯に広がる畑では
様々な野菜が栽培されおり、
その農道からの野菜畑の眺めは、開放感が一杯で、
その後ろにある有珠山と昭和新山がこれまた素敵だった。

 彼は、その農道をサンダルばきで片手をポケットに入れ、
愛犬をつれてのんびりと散歩していた。
初めてすれ違った日、
「おはようございます。」とあいさつした私たちに、
愛犬が、急にワンと一声吠えた。
彼は、「吠えるな。」と小声で愛犬を叱り、
農道の片隅に立ち止まり、私たちを見送った。

 次に出会ったとき、愛犬はもう吠えなかった。
彼は私たちのあいさつに、「おはよう。」と答えてくれたが、
相変わらずサンダルに片手ポケットだった。

どうした訳か、私は、あの広々とした丘陵の農道で、朝の光を受け、
彼と出会うことを楽しみにするようになった。

 わずが数秒のすれ違いである。
しかし、そこには幾つものエピソードがある。

 あの朝は、いつもの帽子をかぶり忘れ、
一人でジョギングに出た。
彼は、例のごとくサンダルと片手ポケット。
愛犬は私を見て、いつものように吠えなかった。
私は、明るく「おはようございます。」
と、声をかけ、走り過ぎた。
彼は不思議そうな顔をして私を見た。
若干、不自然な空気が流れた。
そして次の瞬間、私の背に
「帽子ないと、そっか。ゴメン。」
 きっと片手ポケットのままだろう。
それでも、きちんと体を私にむけていたと思う。
私は、おかしさがこみ上げ、
走りながら振り向くことなく、片手を勢いよく振った。

 夏の暑い盛りの日、
久しぶりにいつものスタイルの彼に出会った。
 「おはようございます。」
と、二人して声をかけた。
 「暑いね。よく走るね。百まで生きれるわ。」
と彼。
 「そう、百歳が目標。」
と笑う私。
 「それはいい。無理するな。」
素っ気なく言い放つ彼。
 肩の力がすっと抜け、クスッと足下を見た。

 雨が降らない日が何日も続いた。
 農道から畑の土色を見ながら、
「これじゃ、農家は困るなあ。」
と、挨拶代わりに彼。
 「そうですね。」
としか切り返せず、駆け抜ける私。
 そして、雨上がりの朝。
「雨降って、良かったですね。」
と、明るく声をかける私に、
 「このくらいの雨じゃ、足りん。」
と、無愛想な彼。
 私は「すみません。」
と、心の中でつぶやきながら、
なんで叱られ役なのと、首を傾げ、
それでも、家内と顔を見合わせ、明るくランニング。

10月に入り、家内が膝痛で走れなくなる。
 「あれ、一人かい。」と片手ポケット。
「はい、膝を痛めて。」
「そうかい。大変だ。」
それから数日後、
「あれ、一人かい。」
「膝、痛めて。」
「知ってるけど、まだ治らんかい。」
「はい。」
「大事にしてやんな。」
寒くなってきたのに、まだサンダル。
でも、その言葉ににじむ温かさに、
私はちょっとだけ熱いものが。

 飾りっ気などどこにもない。
 いつも愛犬をつれ、
ゆっくりとした歩調の散歩。
振る舞いもたたずまいも変わらない。
だけど、彼とのすれ違いながらの会話に、
私は、人としてのあり方を教えてもらっている。

「そんなに、力、入れないの。」って。




数日前 有珠山 初冠雪
  




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