4,5年前になるだろうか。
伊達観光物産館のコーナーに、
『随筆 大手門』と『随筆 大手門(2)』が、
数冊ずつ並んで売っているのに気づいた。
伊達で「大手門」と言えば、
歴史の杜公園の正面にある門のことである。
「地元の著名な方々が執筆したものだろう」。
そう推察し、手に取った。
1冊が約300ページ、ペラペラとめくってみた。
題名や内容よりも、書き手が気になった。
なんと知った名前が、すぐに2人も見つかった。
そして、この随筆が、
北海道胆振・日高地方の地元紙である『室蘭民報』の文芸欄に、
定期的に掲載されているものだと知った。
そんな執筆活動が、
平成14年から続いていることも分かった。
私の身近なところに、そんな文芸グループがある。
少し気になったが、
「私には無縁なもの」と、その本を買おうともしなかった。
ところが、1年前のことだ。
1本の電話があった。
翌日、その執筆をしている同人『楽書きの会』主宰と事務局のお二方が、
我が家を訪ねてきた。
そして、入会と文芸欄への執筆のお誘いを頂いた。
「まさか私に声がかかるなんて・・!」。
想定外の展開だったが、「頑張ります」と返事をした。
主に、このブロクや過去に書き残したものに筆を入れ、
この1年で5編、『室蘭民報』文芸欄・随筆「大手門」に、
掲載してもらった。
それを、今回と次回に転記する。
◇ ◇ ◇ ◇
種 を ま く
40年間、東京都内の小学校で教職を務めました。
その後、生まれ故郷に近い伊達に居を構え、7年になります。
縁あって『楽書きの会』に加えて頂き、最初の随筆です。
ある年の秋、保護者の方々に語った一節を記すことにしました。
北海道育ちの私にとって10月は、厳しい寒さを控え、
あわただしく冬支度をする、どこかもの悲しい時季でありました。
小学校4年生の時に担任をして頂いたA先生は、
よくそんな北国の四季の移り変わりについて時間をさいて話してくださいました。
しかし、ヤンチャで落ち着きがなかった私にとって、
先生の話は興味を示すようなものではなく、
ただただ聞き流すと言うよりも心に全く止めないものでありました。
しかし、成人するにつれ、私は、
新緑のまぶしさ、盛夏の木々のたくましさ、
紅葉のあざやかさ、そして枝だけの寒々とした木立、
そんな風景を見るたび、教室の窓辺に目をやりながら、
季節を語っていたA先生の姿を思い出すようになりました。
今、慌ただしく流れる日々の中ででも、
こうして季節の移ろいに目をやることができ、
路傍の草花に一瞬でも心を奪われるのは、
きっとA先生が、ろくに聞いてもいない私たちに、
あきらめることなく種をまいてくださったからに違いないのです。
そう考えると先生への感謝の念と共に、
私たち大人は懲りることなく、
粘り強くコツコツと多くのことを子ども達に語り続けなければと思うのです。
<令和元年 8月24日(土) 掲載>
◇ ◇ ◇ ◇
対 角 線 を 進 ま な い
若い頃、動物園でチンパンジーの飼育係の方から
お話を伺う機会がありました。
園内の約束の場所で待ち構えていると、
歩き格好から表情までどこかチンパンジーに似た方が現れ、
思わず忍び笑いをしてしまいました。
「最近富みに人間離れしてきたようで・・」と、
私共の失礼な反応を軽くかわし、
彼はチンパンジーのことを熱く語ってくれました。
その一節に強くひかれ、今も心にあります。
それは、チンパンジーが寝室にいる時に、
飼育係が近寄っていく場面のことです。
寝室は、一頭ずつ長方形に仕切られた鉄の檻で、
床はコンクリがむき出しだそうです。
一方の鉄柵の角に、飼育係が出入りする扉があります。
チンパンジーは決まってその扉と正反対の片隅に、
自分で毛布を敷いて寝ます。
時々、体調を崩してしまうことがあり、
その寝室へ入って、直に様子を見なければならない時があります。
そんな時、飼育係は扉を開け、
チンパンジーに近づいて行きます。
その近づき方に、私は教えられました。
扉と正反対の片隅にいるチンパンジーに近づく時、
決して対角線上を真っすぐに進まないのです。
鉄格子ぞいの柵づたいに、遠回りをするのです。
チンパンジーは、顔馴染みの飼育係が寄ってくるのに気づくと、
そのまま近づいてもいい時は動きません。
近寄ってほしくなければ、
近づく飼育係と反対の方向へ移動していくのです。
しかし、仮に対角線を飼育係が進み、
片隅のチンパンジーが近寄って欲しくない気分でいたら、
どんな行動をとるでしょう。
移動する所がないのです。
残された方法は威嚇するか、
飼育係にとびかかるかになるでしょう。
決して対角線を進まないと言うこの話は、
チンパンジーと飼育係のことに限らないと思います。
私たちが常に心して、
良好な人間関係を築いていく基本のように思えるのです。
<令和元年11月16日 掲載>
ジャガイモ畑は 花やか
伊達観光物産館のコーナーに、
『随筆 大手門』と『随筆 大手門(2)』が、
数冊ずつ並んで売っているのに気づいた。
伊達で「大手門」と言えば、
歴史の杜公園の正面にある門のことである。
「地元の著名な方々が執筆したものだろう」。
そう推察し、手に取った。
1冊が約300ページ、ペラペラとめくってみた。
題名や内容よりも、書き手が気になった。
なんと知った名前が、すぐに2人も見つかった。
そして、この随筆が、
北海道胆振・日高地方の地元紙である『室蘭民報』の文芸欄に、
定期的に掲載されているものだと知った。
そんな執筆活動が、
平成14年から続いていることも分かった。
私の身近なところに、そんな文芸グループがある。
少し気になったが、
「私には無縁なもの」と、その本を買おうともしなかった。
ところが、1年前のことだ。
1本の電話があった。
翌日、その執筆をしている同人『楽書きの会』主宰と事務局のお二方が、
我が家を訪ねてきた。
そして、入会と文芸欄への執筆のお誘いを頂いた。
「まさか私に声がかかるなんて・・!」。
想定外の展開だったが、「頑張ります」と返事をした。
主に、このブロクや過去に書き残したものに筆を入れ、
この1年で5編、『室蘭民報』文芸欄・随筆「大手門」に、
掲載してもらった。
それを、今回と次回に転記する。
◇ ◇ ◇ ◇
種 を ま く
40年間、東京都内の小学校で教職を務めました。
その後、生まれ故郷に近い伊達に居を構え、7年になります。
縁あって『楽書きの会』に加えて頂き、最初の随筆です。
ある年の秋、保護者の方々に語った一節を記すことにしました。
北海道育ちの私にとって10月は、厳しい寒さを控え、
あわただしく冬支度をする、どこかもの悲しい時季でありました。
小学校4年生の時に担任をして頂いたA先生は、
よくそんな北国の四季の移り変わりについて時間をさいて話してくださいました。
しかし、ヤンチャで落ち着きがなかった私にとって、
先生の話は興味を示すようなものではなく、
ただただ聞き流すと言うよりも心に全く止めないものでありました。
しかし、成人するにつれ、私は、
新緑のまぶしさ、盛夏の木々のたくましさ、
紅葉のあざやかさ、そして枝だけの寒々とした木立、
そんな風景を見るたび、教室の窓辺に目をやりながら、
季節を語っていたA先生の姿を思い出すようになりました。
今、慌ただしく流れる日々の中ででも、
こうして季節の移ろいに目をやることができ、
路傍の草花に一瞬でも心を奪われるのは、
きっとA先生が、ろくに聞いてもいない私たちに、
あきらめることなく種をまいてくださったからに違いないのです。
そう考えると先生への感謝の念と共に、
私たち大人は懲りることなく、
粘り強くコツコツと多くのことを子ども達に語り続けなければと思うのです。
<令和元年 8月24日(土) 掲載>
◇ ◇ ◇ ◇
対 角 線 を 進 ま な い
若い頃、動物園でチンパンジーの飼育係の方から
お話を伺う機会がありました。
園内の約束の場所で待ち構えていると、
歩き格好から表情までどこかチンパンジーに似た方が現れ、
思わず忍び笑いをしてしまいました。
「最近富みに人間離れしてきたようで・・」と、
私共の失礼な反応を軽くかわし、
彼はチンパンジーのことを熱く語ってくれました。
その一節に強くひかれ、今も心にあります。
それは、チンパンジーが寝室にいる時に、
飼育係が近寄っていく場面のことです。
寝室は、一頭ずつ長方形に仕切られた鉄の檻で、
床はコンクリがむき出しだそうです。
一方の鉄柵の角に、飼育係が出入りする扉があります。
チンパンジーは決まってその扉と正反対の片隅に、
自分で毛布を敷いて寝ます。
時々、体調を崩してしまうことがあり、
その寝室へ入って、直に様子を見なければならない時があります。
そんな時、飼育係は扉を開け、
チンパンジーに近づいて行きます。
その近づき方に、私は教えられました。
扉と正反対の片隅にいるチンパンジーに近づく時、
決して対角線上を真っすぐに進まないのです。
鉄格子ぞいの柵づたいに、遠回りをするのです。
チンパンジーは、顔馴染みの飼育係が寄ってくるのに気づくと、
そのまま近づいてもいい時は動きません。
近寄ってほしくなければ、
近づく飼育係と反対の方向へ移動していくのです。
しかし、仮に対角線を飼育係が進み、
片隅のチンパンジーが近寄って欲しくない気分でいたら、
どんな行動をとるでしょう。
移動する所がないのです。
残された方法は威嚇するか、
飼育係にとびかかるかになるでしょう。
決して対角線を進まないと言うこの話は、
チンパンジーと飼育係のことに限らないと思います。
私たちが常に心して、
良好な人間関係を築いていく基本のように思えるのです。
<令和元年11月16日 掲載>
ジャガイモ畑は 花やか
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