ワンダースター★航星記

写真を撮るとは、決して止まらない時間を止めること。旅や日常生活のインプレッシブな出来事を綴ったフォトエッセイ集です。

ショートストーリー 『海の見える街 』 ~「魔女の宅急便」から

2018-01-06 | 心の旅

 ショートストーリー 「海の見える街」 ~「魔女の宅急便」から

              

クリック デジブック 『海の見える街 』

 
「何だか、この街にはデ・ジャブーを感じてしまう。
 昔、君と来たことがあったっけ?」
僕がそう聞くと、君はニンマリ、微笑んだ。
「憶えてないのね!」
南欧風の白壁の家が建ち並ぶ街。
敷き詰められた石造の道を
コツコツとヒール音を響かせながら
君は先に立って、ずんずん、歩いていく。
僕は立ち止まっては、シャッターを切るものだから
とうとう、君を見失ってしまった。


おとぎ話に出てくるような
綺麗な街は静寂に包まれている。
洗濯物を抱えた女たちの
お喋りが聞こえてきそうなのに
軒下からは子どもたちが
歓声をあげて、飛び出してきそうなのに
街はスペイン絵画のように
キャンパスの中で静止したままだった。
「きっと、この街は現実には存在しないのだろう」
潜在意識の中にある街なのかもしれない。
時おり、聞こえてくるのは
潮風にのった海鳥の鳴き声と
旅立ちを告げる霧笛の音。
唯一、それだけが、生きたものの証し。
「わかった! この街は“海の見える街”だ!」


「やっと、思い出したのね」
君は街角から、ふいに現れて言った。
「キキが立派な魔女になるために・・
 箒に乗って、訪れた街よ」
それは二人で初めて観に行った
映画の中で描かれていた街だ。
「そうか。だから、記憶にあったんだ」
それから、僕たちは生きたものの証しを得るために
岬の先端にあるカフェ目指して
海際の白い道を下っていった。
カフェの中は意外にも活気があった。
暖かいスペイン紅茶をお腹に入れて
僕たちは生き返った。
やっと、現実の世界に戻ったのだ。


(by あずき煮えた)

久石譲 フルオーケストラバージョン

  
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