並木道
四丁目の大通りはセブズーの町の中で一番にぎやかな所だった。そんなに広い通りではなかったが、両側に店が並び立ってたくさんの買い物客でいつも賑わっていた。その通りには横に入る路地がいくつもあって、それがより複雑な人の流れを見せているのだ。四丁目の昼間の顔がそこにあった。
その四丁目が夜になると一転する。大通りを歩く者はほとんどなく、怪しい人影が細い路地から出没して闇の顔を見せるのだった。その通りの北端は中でも一番淋しい場所だった。ガス灯が途切れ、人の住む家はそこから極端に少なくなるのだった。両側に低木の茂みが広がり、畑と森が続いている。
道の両側にポプラの並木があって、そこを歩くと、太いポプラの幹に何か得体の知れないものが潜んでいるような気がして、エミーの心は不安に震えていた。エミーは隣を歩くカルパコの腕にしっかりしがみついて、その不安を紛らわそうとしていた。
「ポプラがこんなに怖いものだとは今まで知らなかったわ。」エミーが小さな声で言った。
「確かに、あの幹に何か得体の知れないものが潜んでいるようで不気味だ。」
ポプラの幹はちょうど大人が一人、完全に隠れてしまう太さだった。その幹が道に沿って何本も両側に並んでいるのだ。その並木道を進むと、道の前後にポプラの木立が行列を作って並んでいるように見えた。その幹の向こうに不審者が何人も潜んでいて、今にも襲い掛かって来るように思えるのだ。そのくせこちらには身を隠す場所さえないのだ。
「本当にやって来るのかしら。」
「きっと来るだろうさ。」カルパコはそう言いながら辺りを見回した。後ろの方には、一組の男女が肩を並べて何かおしゃべりをしているようだった。カルパコはそれを無視して、もう一度ポプラの幹を順番に目で追っていった。すると、ポプラの幹が動いたような錯覚を覚えた。カルパコは息を飲んでそのポプラの樹に近づいた。そして一気にポプラの幹の裏側に回り込んだ。しかしそこには何もなかった。
「気のせいだったか。」
「カルパコ、あまり動かないでよ。」
「心配いらないさ。」
「でも、何が起こるのか分からないんだから。」
「分かった。気を付けるよ。」
「あっ、カルパコ、」エミーが緊張してカルパコの名を呼んだ。
「どうした。」
「あれ、」エミーは目で並木の先の方を示した。
「何か見えるか。」
エミーの視線を追うと、並木道の向こうから人の歩いて来る影が見えた。闇の中から、ゆっくりとその人影は確かにこちらに向かって歩いて来ているのだ。二人は闇に目をこらしてその人影を見た。歩き方がぎこちないように思われた。それはやがて杖をついているためだと分かった。そのうちに人影は老婆の姿に見えるようになった。カルパコはエミーの肩を抱いて、やって来る老婆の様子を見守った。その老婆はせこけた頬に異様なほど高い鼻が伸びていた。
「カルパコ、あれは、夢に出て来たおばあさんにそっくりだわ。」
「何だって、」
「間違いないわ、杖をついたあの歩き方、よく覚えているわ。鼻がとがって、せているの。パルガって言ったわ。」
「しかし、まさかそんなことはないだろう。」
「夢は夢だものね。でも似ている。あの夢もこんな闇の中だったの。薄暗いガス灯に照らされておばあさんはあんな歩き方をしてた。」
そのうちに老婆が間近に迫って来た。顔がはっきり見えるようになった。エミーの思いは確信に変わった。口の中がからからに乾いていた。
「パルガ。」エミーが言った。
「おや、わしの名前を知っているのかい。」老婆がゆっくりした口調で言った。
「夢の中で、会いましたわ。」
「夢の中とな。」
「ええ、確かに。」
「フオッ、フオッ、面白いことをいう。とにかくついて来るがよい。」
「では、あなたがこのメッセージを、」カルパコは、カラスが運んできた紙を差し出した。
「よいか、さりげなくついてくるのじゃ。向こうの二人も一緒にな。」
「どこに?」
「恐れることはない、危害を加えようと言うのではない。黙ってついて来るのじゃ。」
パルガはそう言うと、大通りを歩き始めた。カルパコとエミーは戸惑いながらその後をついて行った。途中ダルカンとエグマが加わり、その後をバックルパーがついて行った。パルガは大通りから小さな路地に入り、何度か辻を曲がって袋小路に入った。
袋小路の奥のアーチを潜ると小さな中庭があり、パルガ達は、その一角にあるドアを開けて中に消えた。
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