終 章
ランバード王国にウイズビー王が誕生した。セブの称号は廃され、ウイズビーが自らの名で王位を継いだのだ。生きたまま王が引退して王位継承をしたのは、ランバード王国始まって以来の事だった。
血塗られた王家の歴史は途絶えたのだ。
新王が即位して間もなく、ランバード王国は新たな王家の墓を建立した。牢獄につながれた歴代の王がはじめて棺の中で安らかな眠りについた。その一番奥の棺にはクライン・マルトの名が刻まれていた。その王達の眠りを見守るように、守人となった乙女達の碑が建てられた。
ゲッペルは王から許可を得て自分の祖先を祭る神殿を造り上げた。王国に尽くした功績と忠誠の印に、赤と青の玉をはめ込んだパネルが神殿の中央に取り付けられていた。
荒廃した国土は少しずつ息を吹き返して、山に緑が戻っていた。野原には花が咲き、虫達が踊っていた。
ダルカンはランバード王国の新たな歴史を執筆していた。そしてエグマは旧字体の研究者として、旧字体を国民に広めようとしていた。二人は結婚して今は可愛らしい女の子が一人、家族の一員になっていた。エマと名付けられていた。
カルパコはバックルパーの仕事場で樽職人になっていた。カルパコはバックルパーが認めるほどの技術者となり、バックルパーの仕事場をそっくり譲り受けていた。毎日仕事をしても追いつかないほど盛況だった。
バックルパーは海の男に戻っていた。古い商船を手に入れ、念願の海に出たのだ。いくつもの国を訪れ、ランバード王国の商品を紹介し、諸国の文化をランバードにもたらした。
バックルパーの心は晴れ晴れとしていた。自分の体と心が自然に歌い始めるように思えた。バックルパーは再び自分の本当の生き方に巡り会ったような気がしていた。
その船に、時々エミーも乗ることがあった。エミーはソウル歌手として大成功を収めていた。その名は国外にまで届いているのだった。年に何度か、海外公演が組まれていた。エミーの登場はヅウワンの再来と呼ばれ、サンロットや市民の絶賛を受けた。やがてエミーはヅウワンを越えて国際的な歌手となっていったのだ。
ランバード城の中庭にバラ園があった。
ロゼットが無心に花の手入れをしていた。その花園にひっそりと、白い花が咲いていた。ウイズビー王がそれを見つけて足を止めた。ウイズビーは白い花びらに顔を近づけてその香りを胸一杯に吸い込んだ。そしてそっと口づけをした。それを見たロゼットが笑いかけた。
「どうしたの、ウイズビー。」
「母上、とても可愛い花ですね。今まで気づかなかったが、まるで母上のようだ。」
「何を言うの、ウイズビー、」ロゼットは明るい笑顔で答えた。
「母上、私は父上を救うために黄泉の国に行って来たのです。」
「ええ、あなたはよい働きをしました。そのお陰でお父様はあんなに元気になられたのです。私からも礼を言います。」
「ありがとうございます、母上。」
「いい天気だわ。」
「そうですね。空が抜けるように青い。」
ウイズビーは母に、セルザの事を言い出そうと思ってその間際でやめた。セルザの愛を母に知らせたかったが、それと同じだけの愛情を母の中に見たのだった。何という名の花なのかウイズビーは知らなかったが、あの地下牢で見た白い花と同じ花が、母の手でさりげなくも優しく育てられていたのだ。花はよく肥えた黒い土の上に、清楚な花びらを開いていた。
誰も口を挟む問題ではなかった。
白い花はそよ風に揺れて、明るい太陽の日差しの中で笑うように見えた。ウイズビーはその白い花に向かって最敬礼をした。
「まあ、変な子ね。」
ロゼットがさもおかしそうに言った。
「何でもありません、母上。これから父上の下に参りますが、何か御用は。その花、持って参りましょうか。」
「結構よ。このバラは、後で私が持って行きますから。」
「そうですか、では、」
ウイズビーは大股に歩いて、花園を後にした。
了
長い間ありがとうございました。
「黄泉の国より」は本日で終了しました。いかがだったでしょうか。 (Waa)
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