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のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

八、ピンクの銀河(3)

2016-08-22 | 童話 スケール号の冒険(第4話)

 

 

 

 博士の目からは、もう涙は出ていなかった。その代わりに、腕を組んで考え深げな表情をしている。

 「もう一度、みんなに聞きたいんだが、」

  「何でしょうか。」

 「この気持ちを、一言で言い表すとしたら、どんな言葉が浮かんでくるかね。」

 「さあ、言葉ですか。」ぴょんたが考え込んだ。

 「考えてはだめだよ。瞬間に思いつく言葉でなけりゃだめなんだ。」

 「ゆりかごでヤすな。」

 「柔らかい毛布です。」

 「わスはあの、あれだス。」

 「あれでは分からないでヤすよ。」

 「あれって、あれのことだス。」

 「ぐうすか、あれって、何のことなんだ。言って見ろよ。」艦長が半分命令のように言った。

 「言うのが恥ずかしいだス。」

 「いいから言ってごらん。」博士が優しく言った。

 「笑わないだスか。」

 「笑わない笑わない。」ぴょんたが言ったが、もう笑い出していた。

  「ほら、もう笑っているだス。」

 「ぴょんた、ばか、笑うな。」艦長がぴょんたに注意した。

 「さあ、言って見ろ。」

 艦長も少しほっぺたが引きつっている。しかしそこは艦長、ぐっと我慢してぐうすかを見つめた。

 「その、あれだス。お母さんの・・・・」

 「お母さんの、」もこりんがぐうすかを手伝うように言った。

 「おっぱい。」

 「おっぱいだって、」ぴょんたが笑った。

 「ほら、やっぱり笑っただス。」

 「いや、ぐうすか、君の答えが一番近いかもしれないぞ。」博士が大きく頷きながら言った。博士のほっぺたもすこし引きつっていたが。

 「そういえば、お母さんと言うのが一番ぴったりでヤすな。」

 「私もそう思います。」艦長が言った。

 「やはり、これは偶然ではない。みんなの持っている感じは、ほぼ同じのようだね。我々はみな、どこかに同じ体験と思い出をもっていて、それがこの場所にあるのかも知れない。」

 「博士、それは何なのですか。私にはあれがゆりかごのように見えますが、それも昔の体験なのでしょうか。」

 「そうだな、あるいはもっと深い所での体験かもしれない。」博士は赤い渦巻き星から目を離さないで言った。

  「艦長、もしかしたらこれがピンクの銀河じゃないですか。」

  「いや、違うだろう。あれは銀河にしては小さすぎる。」

  「艦長の言うとおりだ。」博士が艦長の後を続けた。

  「それでは何でヤすかね。」

 「ここは星の生まれている所に違いない。母親のおなかの中のような所なんだ。」

 「おなかの中だスか。」

 「そうだ、ところでみんなお母さんのおなかから生まれたんだが、それは知っているかね。」

 「知ってます。」

 「知っているだス。」

 「知っているでヤす。」

 「もちろん知っていますよ。」

  「あの赤い渦巻きの中心に星の赤ちゃんがいるんだ。ゆっくりと渦を巻きながら、星に必要な物質が運ばれ、少しずつ成長している。君達がお母さんのおなかの中で養分をもらって大きくなったようにね。」

  「星の赤ちゃんだスか。道理で艦長が呼びかけても答えない訳だス。」

  「ははははははははははははは」

  「ははははっははははっははははっははははっ」

  「そうするとこの声は、子守歌だスかね。」

  「案外そうかも知れないな。」博士が言った。

  スケール号が少しずつ赤い渦巻きに近づいた。その中心に小さな星の赤ちゃんが明るく輝いていた。その赤ちゃん星から若々しいエネルギーが青白い光になって飛び出している。

  「すると博士、あの赤ちゃん星から飛び出している青白い光は、赤ちゃんのおしっこでヤすか。」

 「もこりんきたねーっ」ぴょんたが言った。

 「まあ、それに似たようなものだが、もっと別のものに例えると、静脈だね。」

 「静脈というと、」艦長が聞いた。

 「血管の事ですよ。血管には動脈と静脈があるんだ。」

 「ぴょんた、さすがお医者さんだね。」博士がにっこり笑った。

 「すると博士、動脈はどこにあるんです。」ぴょんたが得意になって聞いた。

 「あの赤い渦巻がそうだよ。ご覧、あの赤い渦巻はゆっくり回転して、赤ちゃん星に養分を運んでいるんだ。この辺りの塵も、ゆっくりあの渦の方に流れているのが分かるかね。」

 「ああ、なるほど、そうですね。」艦長があらためて辺りを見回した。

 「宇宙の至るところから養分が集められて赤ちゃん星に届けられている。それが動脈だ。そして赤ちゃん星が成長していらなくなったものが外に持ち出される。それがあの青白い光の放出なんだ。つまり静脈と言う訳だ。」

 博士の話はやっぱりむずかしい。ぐうすかは危うく寝そうになった。

 「はははははははは」

 「はっはっはっはっはっはっはっは」

  「ははははははっははははははっははははははっははははははっ」

  また懐かしい声が響いた。

 「ちょっと待って下さい、博士。」ぴょんたが思い出したように言った。

 「何だね。」

 「もしもこの声が、子守歌なら、赤ちゃん星以外に、それを歌っている者がいるって事ですよね。」

 「あっ、そうでヤすよね。」

 「そうそう、そうだスよ。この子のお母さんがどこかにいるんでヤすな。博士、そうだスね。一体どこにいるんだスかね。」

 「ここだよ。」博士がはっきりした口調で言った。

 

 

つづく

 

 

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