のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

ジイジと北斗20(新スケール号の冒険)

2021-04-26 | 物語 のしてんてんのうた

 

(20)

フェルミンは元気で朗らかな、優しい子供でした。野原を駆けまわるのが大好きで、王宮にある森に興味を持って、ふと気付いた不思議があると、それを探ろうとどこへでも探検する活発な子だったのです。野外の空気はどこまで行っても広く、清らかに感じられました。不思議なのはいつも、フェルミンが遊んでいると森の動物たちが集まってくることでした。フェルミンが森で迷子になっている時も、必ず動物たちが助けてくれたのです。それというのも。フェルミンは動物と話が出来たのです。

どうして話せるようになったのか自分でも分かりませんが、幼いころから宮殿の森で動物たちと過ごすうちに言葉を覚えたのでした。大きくなって、誰も動物と話せないということを知ったときの驚きをフェルミンは忘れません。

森の中には新しいことがたくさんありました。空を飛ぶことや、花の蜜、穴倉の掘方、木の枝で編んだ棲家。地下道の作り方まで、動物たちの智慧はフェルミンを夢中にさせてくれたのです。動物たちは皆、個性ある特技を持っていて、皆がパズルのピースのように役に立っていないものはないのです。だからこそそれを活かしあったらきっと素敵な森が出来る。そう気付いたのはフェルミンが大人になる前の年でした。フェルミンが動物たちにそんな話を聞かせてやったことが、甘い河に集まる動物たちと苦い河に集まる動物たちの助け合いに発展しました。互いに相手にないものを与え合うことは動物たちに倍の喜びをもたらしたのです。

そんなフェルミンには幼いころから兄弟のような友達がいました。親衛隊長の息子エルで、3つ違いのお兄さんでした。そのエルが成人して親衛隊に入ると、フェルミンはなんとなく親衛隊に出入りするようになったのです。少しずつフェルミンは親衛隊のことを知るようになって、王宮の危険を感じるようになったのです。

それは動物たちの智慧でした。「王宮は袋のネズミ」フクロウがよく言っていた言葉の意味が初めて分かったのです。意識して見ると、王宮には正面以外に逃げ道がありませんでした。フェルミンがエルにその話をすると、いつの間にか親衛隊の若者たちが集まり、ひそかな隠れ城作りに情熱を傾けるようになったのです。

フェルミンの動物の智慧がたいそう役に立ちました。穴掘りには動物たちが助けてくれましたし、隠れ城に適した洞窟も動物たちが探してくれました。動物の間では「緑の穴」と呼び合う、その全容も知り得ない天然の地下洞窟でした。その名の通り入り口は樹木が茂り、穴は見えません。そこに至る巧みな道筋は動物にしか分からないのです。

それにしても緑の穴の隠れ城をこんなにも早く、こんな形で使うことになるとは、作り上げた当の若い親衛隊ですら知らないことでした。

それは深夜のことだったのです。突然反乱軍が立ち上がり、瞬く間に宮殿が戦場となってしまったのです。宮殿に至る門や通路、通用門からベランダ、窓に至るまで、人の出入りできる場所はことごとく反乱兵におさえられていました。松明が焚かれ、ネズミ一匹そこから逃げることはできなかったでしょう。親衛隊の抵抗は時間の問題と思われました。王のベッドにフェルミンが駆け込んできて、王を宮殿から脱出させるころには、もう反乱軍は宮殿内宮の門に迫って居たのです。外宮の至る所から火の手が上がっています。フェルミンの必死の説得で王はようやく動きました。衛兵に守られながらフェルミンにしたがって王宮を脱出しました。

「王様、後はこの親衛隊が知っています。穴倉で住み心地は今一つですが、御無事で、お父様」

「フェルミン、お前は。」

「私は戻らねばなりません。この道を消すのは私しか出来ないのです。」

「しかし・・」

「ご心配は御無用です。むざむざ死にはいたしません。」

「フェルミン、わしはそなたを止めることが出来ぬのか。」

「王様、反乱軍を見極め、必ず復権いたしましょう。それまでの辛抱をなさってください。」

フェルミンはそう言うや、踵を返してその場を走り去りました。

地下道の破壊は、隠れ城作りの工程に組み込まれていたものでした。地下水脈や川の力を利用して完全に道を消すために、その要所要所に爆薬を仕掛けていました。フェルミンはそれを爆破しながら王宮に向ったのです。もはや虫や動物でさえ道を知ることはできないでしょう。

反乱軍はすでに内宮を制圧して、本宮の門を壊し始めているのです。フェルミンは王宮の隠れ道を塞ぎ終わると、庭に飛び出して行きました。ちょうど門が打ち破られ、兵がなだれ込んでくるところでした。応戦する衛兵は数十人足らずです。剣をはらいフェルミンはその小さな一団の中に入って行ったのです。

「外に出るのだ、ここに守る王はいない。無事脱出した。」

フェルミンの一言に、衛兵たちは歓声を上げました。

「己だけを守ればいい。生きて、王宮を出るのだ。緑の穴だ。」

「オオーっ!」

衛兵たちは雄叫びを上げて、反乱軍の中に突入していったのです。フェルミンは外宮の庭でついに兵士に取り囲まれました。肩で息をしながら敵兵を見ると、それは見知った者たちでした。

「目を覚ませ、ここは王宮だぞ!」フェルミンが叫びました。

「その王に天誅を下すのだ!」

兵は顔をゆがめ、そして剣を振り上げたのです。すると背後で声がしました。

「こやつを殺すなチュのだ。生け捕りにするだチュ!」

その声に反応して、兵が一斉にとびかかり、フェルミンを取り押さえたのです。

「フェルミン!」かすかに聞こえた声があります。

その声の方にエルの姿がありました。無数の反乱軍の頭にさえぎられて。エルは必死でこちらに向おうとしているのです。

「緑の穴だ!王様を・・・」

言い終わらないうちにフェルミンは打ち据えられ、縄をかけられてしまったのです。

 

***

「姫様が捕えられたのはこの場所です。」

スケール号の操縦室で、エルが悔しそうに言いました。そこに見えているのは焼けただれた門を背景にした広場の真ん中でした。入り乱れた人の足跡がいまだに残っています。千を超える反乱軍が一気に押し寄せて来たのです。城内にいた衛兵はわずか二百。それも一つにまとまる時間さえありませんでした。あっという間の出来事だったのです。

「それで姫君は何処に連れて行かれたのだ。どこまで調べがついているのだ。」バリオンの王様が聞きました。

「あの焼かれた門の奥が中宮で、その奥の門をくぐると本宮、王の間もあります。例のネズミたちはそこで指揮を出しているのです。」

「地下牢などは無いのか。」

「中宮の広場の下にあります。すでに調べましたが、そこには誰もいませんでした。しかし姫様はこの宮殿のどこかに捕えられているはずです。」

「エル殿、先ほど確か姫様のメッセージが各所にあると言われていたが、それはどんなところに?」

博士が二人の間に割って入りました。

「おおそうでした。見てください。ご案内しましょう。これは姫様が諦めていない確かなしるしなのです。」

エルは宮殿内の大まかな地図を画き、スケール号は忍びながらフェルミン姫の痕跡を辿って行きました。フェルミンはエルや衛兵にしかわからないマーキングを残しているというのです。

その時に出来ることを利用したマーキングです。小石を均等に並べていたり、壁に点と線の傷が入っていたり、フェルミンの服の切れ端が石垣の隙間に差し込まれているところもありました。これは明らかにフェルミンが連行されていく途中に、すきを見て残したマーキングなのです。エルはその一つ一つを説明しながら、進んでいきました。すると自然にスケール号は王宮の内宮にある奥深い廊下にたどり着いたのです。

「ここで姫様のマーキングは消えています。何度かこの周辺の部屋を探しましたが、ここで行き詰っているのです。」

エルの示したしたマーキングは、波型に残された血痕でした。人が見てもただ引きずられた跡にしか見えません。そこは両側に部屋のある真っ直ぐな廊下でした。エルの話しでは、来賓をもてなす部屋が並んでいるのだそうです。

「もうマーキングはないのだろうか。」

博士がその周辺を見渡しながら言いました。

「うっキャー」

その時突然北斗艦長が奇声を上げたのです。

「うっキャー、うっキャー!」

「博士!艦長がへんでヤす。」

「うっキャーキャー」

手と足をバタバタさせながら艦長は今までなかった高い声を張り上げるのです。

「何かに興奮しているみたいですね。大丈夫かな。」

「笑っているから大丈夫ダすよ。面白い夢を見たんダす。」

ぐうすかは夢の専門家らしく言いました。

その時スケール号の真横に、ドしんと斧が突き刺さりました。同時に前後から兵士が駆け寄ってきたのです。

「見つかった。逃げるんだスケール号。」

「バブー」

スケール号はとっさに反転して、人数の少ない廊下に向かい、巧みに兵の足の間を抜けました。猫退治の歓声が廊下に響き渡る中、スケール号は一目散に逃げだしたのです。

 

 

 

 


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