道立近代美術館は私に大きな充実感を与えてくれた。それは束の間であったにもかかわらず私の心に強く残るものだった。そして何より、里依子の絵ごころに触れて私はいつまでも忘れないだろうと思うのだった。
「帰ろうか・・・」
美術館を出て、私は迷いながら言った。里依子の風邪がひどくなるのを見て、これ以上歩き回るのは辛いだろうという思いやりと、いつまでも一緒にいたいという想いが交錯してどうしようもなく口をついて出た言葉だった。
「じゃあ、帰ります・・・」
しばらくためらった後、里依子が答えた。その声は大変小さく弱々しいものだった。彼女の表情はとても悲しそうでこわばっていた。
そんな彼女を見て私は何かが胸を貫いて行ったように思った。
里依子の答えを聞いて失望しはしなかったが、しかしその裏側で、「まだいいんです」と答えてくれはしまいかと願う自分を知っていた。そしてそれが実に利己的な事のように思えて、私はそんな自分に嫌悪するのだった。
その時、自己嫌悪と里依子への未練が私の胸を一杯にしていた。
HPのしてんてん
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