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眠らされた歴史
四人の子供がバックルパーの仕事場にいた。樽を作る作業台に紙を広げて時々それを見ながら話しを続けている。エミーとカルパコ、ダルカンとエグマの四人だった。四人の並び方を見れば、二組のカップルがテーブルを取り囲んでいるという事がすぐに分かった。
アモイ探偵団は、二つのカップルが集まっている所に強みがあった。愛情と友情が縦糸と横糸のように折り重なって、何よりも強い絆が出来上がっていた。それに四人がそれぞれに違った得意分野をもっていて、互いにその力を必要とし合うことも、仲間としてつながりを持つための見逃せない要素だった。
「ヴォウヅンクロウゾというのは何だと思う?」
「王は山越えの代償に、自分の中にヴォウヅンクロウゾを受け入れたというんだから、それは体か心か、そのどちらかに寄生する怪物みたいなものだろう。」
「いえ、それはきっと悪魔の事なんだわ。パルマが言ってたじゃない。王は悪魔に身を委ねて、そのためにセブ王は三百年も生きたんだって。」
「そうだったな。セブ王は砂漠の民を救うために、ヴォウヅンクロウゾという悪魔に身を委ねたということだね。」
「ランバード山脈を越えるトンネルの入り口で渡された赤と青の玉は、もしかすると噴水に取り付けられたのではないかしら。」
「そうかもしれないな。」
「私が黄泉の国で見た赤い玉のこと?」
「そう。図書館で噴水の設計図を見つけたの。それ、エミーが言ってたのと同じだったわ。エミーはやっぱり、本当に黄泉の国に行ってそれを見て来たんだわ。」
「信じられないが、そうなのかもしれない。」バックルパーが話に加わって来た。
「バックも同じ夢を見たのよ。」
「えっ、本当ですか。」
「二人の記憶はぴったり合っている。」
「そんなことって、あるものなの?」
「受け入れるしかないな。何かが動いているのだ。いいかみんな、これからは決して子供達だけで勝手に動いてはいけない。分かったね。」
「はい。すみませんでした。」カルパコが謝ると、ダルカンもエミーもエグマも皆一斉にバックルパーに頭を下げた。
「でも何が動いているんですか。」ダルカンが訊いた。
「それは分からない。しかし、その王家の歴史を探られたくないものがいて、その一方でそれを暴こうとしているものがいるってことさ。」
「私達はいつの間にか、その一方の側について眠らされた王家の歴史を調べていたってことなの?」
「そういう事だ。君達は何らかの事件に巻き込まれてしまったのだ。」
「怖いわ。」
「でも、後戻りは出来ないよ。」
「とにかく無茶をしないことだ。その依頼主はまだ分からないのか。」バックルパーがカルパコに訊いた。
「ええ、あれから、一度も連絡はありません。」
「私達は依頼主に関係なく、自分達で本当の歴史を調べていただけなんです。」エグマが言った。
「しかし、それは依頼主の思う壷なのかもしれない。君達は利用されたのではないかな。」 「でも、それなら調べた結果を聞きにくるはずですよね。」
「新しい動きがあるかもしれない。しかしそのときは必ず私に言うんだよ。」
「分かりました。」
そのときだった。玄関の方で人の声がした。
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