「純粋な方ですな」御住職の言った言葉がどうしても頭を離れない。
そこから私は自分の至らなさを読み取っているのだ。
心が晴れないまま数日が経過した。
するとそこに迷いと苦悩が広がってくる。
いつまでも成長しない自分。絵が認められなかったらどうしよう。すると克の世界に大きく成長していく姿に羨望が生まれ背中合わせに自己嫌悪、失意、不安、そして己の醜悪さに心をすりつぶす。
それが苦の実態だ。
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12月2日の浄光寺訪問は、のしてんてん絵画「浄土」奉讃会が動き出すその方向を決めるためにどうしても必要だった。
そして方向が決まった。
帰り際に御住職からお土産もいただいた。思いが通ったのだ。
だがなぜか、私の心は晴れなかった。
どこかで心がひっくり返ったしょうな、感覚もあった。
その感覚をできるだけ丁寧に説明してみたい。
自分のために必要なことなのだが、それはたぶん、救いを求める同じ . . . 本文を読む
「ちょっとお客さんがありましてな」
御住職は電話に向かって言い訳をしているようだった。
私が足止めしているために違いなかった。
心の中で手を合わせた。
あと日取りさえ決まれば動ける。寺の法要、永代経と重なる日程をどう切り抜けたらいいのか。
「永代経の法要の時は、一般の人は入場を遠慮していただくということでいいですか?」
電話を終えて、すまなさそうな表情の御住職に、一番気にかかっているこ . . . 本文を読む
「すみませんな」
御住職がそういって戻ってきた。
私は、テーブルの上に広げたポスターの試案を指さして言った。
「私の絵の世界を奉納してみていただくという意味で、個展ではなく奉納会としたいのですがどうでしょうか。」
「奉納は・・・絵を寺に納めるということですのでな・・・」
「何かいい言葉があるでしょうか」
「そうですな、奉讃でしょうな・・・、ちょっとお待ちなされや」
御住職はそう言った . . . 本文を読む
あわただしく玄関に立った御住職を後ろ手に見送って、
私はあらかじめ作っておいた個展の案内用ポスターの図案を取り出した。
個展という言葉が引っかかって、いろいろ考えた。
個展という言葉はあまりに我田引水的な醜さを感じるのだ。
もっと何か、私の絵が人のために役立ってほしい。
漠然と感じるそんな思いで何日か過ごしていたある日、
朝の草引き散歩で歩いている道すがらに「奉納」という言葉がやってき . . . 本文を読む
御住職に導かれて応接の間に通された。
執務室兼用の、質素な部屋のようだった。
布カバーを払うと、異国風の長椅子が現れ、そこに座るように示された。
私は早速図面を広げて展示の方法を説明し、寺の意向を訪ねた。
壁画にしようと思っていたが、鼻から変更することになった。
出入りしないガラス戸と思っていたところが、物置になっているらしく、法要で使うイスなどの出し入れに使うという。
壁画はあきらめ . . . 本文を読む
「これは今、描いている「浄土」の一部です。完成するとこの3倍の大きさになります。」
私は今到達している「浄土」の構想をそのまま説明した。
S30号、90センチの方形キャンバスを一コマにして16枚をつなげる絵を描く。
それが浄光寺本堂の片面にすっぽり収まる壁画になる。
写真はその中心となる浄土への入り口、門となる。
この左右に、浄土を求める苦楽の世界と、門に入った真実の世界をつなげる。
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「純粋な方ですな」
御住職の言葉が奇妙な鮮明さで私の心に響いた。
後先もなく、自分の思いを語る迷惑な人間と、そう写ったのかもしれない。
それでもなおかつ、純粋という言葉は私には否定できない。
それを求めて生きてきたのだから。
つまり、
私が求める言葉を使って、私の無作法を見つめさせる御住職の応接だったのかもしれない。
その後、この言葉が私の心に強い影響を与えることになる。
その御住 . . . 本文を読む
私の訪問に戸惑うような御住職を感じながら、
しかし私は勢いで、5月の展示の話を始めた。
玄関のあがりかまちに資料を広げて、その構想を示した。
私が得たいのは、壁画「浄土」を構想通り進めてもいいのかということと、
具体的な会期だった。
玄関の立ち話のまま、私は説明を続けた。
「純粋な方ですな」
御住職がそう言って、ようやく私が示した制作中の「浄土」作品の写真を目にとめてくれた。
「純 . . . 本文を読む
この時期、
お寺は忙しい。
内情を知らない私は戸惑うばかりだ。
前もって電話をし、この時間ならいいという確認をして、お伺いをしたのだが、、、。
ゆっくり座って、私のプランを説明し、日程なども相談するイメージがすでに私の頭の中にできていた。
そこに出迎えてくれたのが、出かける身支度をした御住職だった。
「来年の話ですやろ」
この時間ならいいと言ってくれた御住職から、迷惑そうな言葉が漏れ . . . 本文を読む