昨日の段山御旅所での能番組の最後は、喜多流の半能「熊坂」だった。シテを務めた狩野祐一さんは弱冠23歳。彼を初めて見たのは4年前の同じ段山御旅所能舞台で演じた「敦盛」だった。あれから4年経ったが能役者としてはまだ若手も若手。薙刀を振り回しながらのダイナミックな「飛び返り」を見ながら、「あゝ若さっていいな…」と思った。能ではよく、身体性と精神性という言葉を目にする。所作で体現することと、深い思いや感情を観る人に感じさせることのバランスがとれていなくてはならないという意味だと解釈している。この「熊坂」は盗賊熊坂長範が金売吉次の一行を襲い、一行に加わっていた牛若丸(義経)に逆に切り伏せられる場面を長範の霊が再現するところがクライマックスとなっている。長範の怒りや悔しさがダイナミックな動きによって表現されるわけだが、面をつけて視界が限られ、重い装束でしかも長い薙刀を振り回しながらの「飛び返り」を見ていると、これは若い肉体でないとあのキレは出ないのではないかと思ってしまう。やゝもすると深い精神性の方が尊く見られがちな能にあって、もっと身体性を重視した能を観たいというのが一能楽ファンとしての率直な想いである。
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熊本、能楽が盛んなようですね。やはり、江戸時代からの伝統が生きているのでしょうか。
私たちの地方では、観能の場所と機会がだんだん減ってきています。淋しい限りです。
熊阪の舞台となった場所、ごく近くです。中山道は当時、宿場間にはうっそうとした松並木が続き、熊阪のような盗賊が多く闊歩していたようです。旅人は、暗くなる前に、何としても宿場にたどり着く必要がありました。広重の浮世絵にあるような夜間の旅は、想像上の産物でしょうね。
大垣にお住まいですか?
私にとって大垣は懐かしい町の一つです。学生時代、合宿練習に行ったこともあります。たしかイビデンの施設に泊まって毎日、養老鉄道で大垣南高のプールまで通いました。また、大垣には知人もおり、お宅を訪ねたこともあります。
25年ほど前、彦根に在勤中、何度か大垣を訪れたいと思っていましたが、そのうちそのうちと思っているうちに2年で転勤になってしまい行けなかったのが今でも心残りです。彦根時代は中山道沿いに住んでいましたので往古の風情を残した街並みを今でも思い出します。
熊本はたしかに藩主の細川氏が代々、能を支援していましたので盛んなところではありますが、どうも最近、あやしくなって来ています。熊本に根をおろして能楽界をリードする方が不在で、行政の熱意も感じられません。何とかせんと、と危機感を抱いているところです。