新潟の旧中頚城地方から能登にかけて、かってドブネという木造漁船が活躍しており、糸魚川にもドブネ大工さんがいた。
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直江津水族館に展示さっれているドブネは、最後のドブネ大工、糸魚川の永越さんの作品
新潟では地引網、能登では定置網用の沿岸漁業に使役された小型漁船で、「オモキつくり」という丸木舟から派生した古い造船方法を残しており、明治から平成の始めまで現役であったようだ。
六年ほど前、私が海のヒスイロード検証のための丸木舟を作っていると新聞で紹介された際、記事を見た上越市のドブネ大工の子孫から連絡があった。
亡くなった爺さんのドブネ造りの大工道具、丸木舟作りに役立てて欲しいとのこと。
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絶滅危惧種道具の鍔ノミは、板材を釘打ちする前に下穴を開ける道具で、打ち込んだ後に鍔を逆から叩いて抜く。四角い孔が開くのだが、見慣れた丸い釘は圧延した西洋釘で寿命が短く、日本の伝統木工では鍛造して造った断面が四角い釘を使うため。
有難く頂いたが、数ある道具のなかで丸木舟造りに使うのは大工ヨキ(小型のマサカリ)とテグリ(手繰りジョンナ)で、それなりに活躍してくれた。
丸木舟造りを終えた後、貴重な大工道具は私のコレクションに加わったが、私亡きあとは遺族に価値の解る人がいるとは思えず、心を痛めていた。
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フェイスブック友達の富山県氷見市の学芸員のHさん、私の投稿に興味を持って遠路ぬなかわヒスイ工房を訪ねてきてくれた。ドブネ大工道具のみならず、私の刃物コレクションに興奮気味に記録をとっていた。
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Hさんが手にしているのは、大工ヨキ。用途や産地などの話題が尽きなかった。
職人の魂と言える道具、粗末に扱ってはバチが当たる。
二度と入手できない貴重な民俗資料は博物館に寄贈するのが一番だが、糸魚川には寄贈できる民俗資料館がないのだ。
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めでたく道具が氷見市立博物館に寄贈が決まった後は、筒石区にある旧筒石漁港を案内。一目みて「おお~、これは!」と感嘆。こういった舟屋は丹後伊江が有名だが、うまく活用すれば観光スポットになるのだが・・・。
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朽ち果てた伝統和船もすかさず記録!残念ながら年々劣化が進んでいる。
有難いことに、一部は私のコレクションに残して氷見市立博物館に収蔵されることになった。
新潟の民俗資料が富山に渡ることに申し訳なさそうだったが、価値がわかる人にわかって貰えばいいし、少なくても私が個人で持っているよりいい。
富山県の学芸員さんは熱心でフットワークがいい人が多く、羨ましい。
東西の文化的境目である糸魚川は、民具資料に紹介されている独自性、特異性のあるものが多い。
それらが誰に顧みられず納屋で錆びついたり捨てられたりしているのだ。勿体ない。