40年前に糸魚川市で大枚をはたいて買い求めたヒスイ原石を買い取って欲しい、と遠路はるばるやってきたご婦人。
車で片道4時間近くもかかる遠方からの来訪だから、ぬなかわヒスイ工房も少しは有名になったもんだ・・・テレビに出た影響か。
しかし持ち込まれた原石を観た途端に絶句した。
糸魚川産の鉱物では観た事もない綺麗なターコイズブルーの原石・・明らかに外国産。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/dc/1a8dd9a12056aa7710bdbe1c2ed93a30.jpg)
ソーダライト???にしては明るく鮮やかなターコイズブルー、ガラスのような透明感・・・ひょっとするとインド翡翠?
インド翡翠とは俗称で、組成はヒスイとはまったく別のグリーンアベンチュリン、つまり緑色の石英だ。
もっともインド翡翠として流通する場合は深緑色が一般的だが、持ち込まれた原石はターコイズブルー。
なんだこの石?
糸魚川でも緑の石英が拾える事があってヒスイと誤認する人もいるが、それは川や海に流れ出た、丸っこい形状の深緑色の小さな石だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/55/d6/842a948248f5d080083fd7c680b9d8e3.jpg)
持ち込まれた原石は、茶色い外皮を持つ角ばった形状で、これは鉱山で採掘された鉱物の特徴。糸魚川産でこのような姿の鉱物は石灰石くらいではないだろうか?
ご婦人を傷つけないように「この色と大きさで糸魚川ヒスイなら豪邸が建つ金額で売買されるはずだけども・・・」と前置きして、ヒスイにしては軽い事、結晶が違う事、質感も異質である事を説明して、糸魚川ヒスイではない事は間違いないと教えた。
気丈な女性だったので助かったが、さぞやがっかりした事だろう。
納得して頂くためにフォッサマグナミュージアムにお連れして、学芸員さんにも目視鑑定して貰ったら、やはりアベンチュリンとの事。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0b/7f/ec0d7cbe704af9fac638a80097da0c40.jpg)
銀色っぽい部分は、糸魚川ヒスイには混じっていない雲母との事。
事情通に聞けば、かって甲府の業者がインド翡翠を糸魚川に大量に持ち込んで、糸魚川の業者はその価値を知ってか知らずか、糸魚川ヒスイと喜んで物々交換していた時代があったそう。
相当に不平等な交換条件だったらしい。
願わくば40年前にこのアベンチュリンを売った糸魚川の人が、インド翡翠を翡翠には違いないだろうと価値を知らずに売った事を祈る。
ヒスイによく似たロディン岩やアルビタイトをヒスイと誤認して売ったなら可愛げもあるが、アベンチュリンと知って売ったなら・・・哀しい出来事。
この事をフェイスブックにアップしたら、今でもヤフオクなどで明らかにインド翡翠としかみえないものを糸魚川ヒスイとして売っている事があると教えてくれた人がいた。
酷い話しだが、国石になって以前より注目が集まる糸魚川ヒスイ、投資を目的に買い求める人も多くなっているはず。
希少鉱物としての現金価値ではなく、縄文から奈良時代初期まで日本列島人に数千年間に渡って愛されてきた歴史的、文化的存在としての価値を広めていく必要を痛切に実感した事件。