温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

芦原温泉 芦原荘

2014年08月29日 | 石川県・福井県
拙ブログでは初登場の福井県。
福井県の温泉といえば北陸屈指の知名度を誇る芦原温泉を挙げないわけにはいきませんが、名だたる温泉ファンのブログを拝見しても、残念ながら芦原をはじめとした福井県の温泉が登場する機会は少ないようでして、紹介されていたとしてもその評価は決して芳しいものではありません。芦原温泉に限ってみれば、純然たる掛け流しの湯使いで温泉ファンからの支持を集めていた某旅館が数年前に閉館して以来、ますますファンから敬遠されております。早い話が、たとえ源泉における質は良くても、あるいはラグジュアリー感が溢れる館内で豪華な料理に舌鼓を打てるお宿であっても、温泉ファンを満足させる湯使いを実践している施設が少なく、よしんば素晴らしいお湯に入れるお宿であっても料金や時間など利用面でハードルが高いため、廉価で良質な他県の温泉に入り慣れている多くの温泉ファンにとっては、どうしても関心外に置かれてしまうのかもしれません。関西の奥座敷という位置づけのために、関西的な温泉観、すなわち温泉は非日常的なハレの場である認識が浸透しているのかもしれません。また、温泉資源が限られているにもかかわらず、数多くの旅館が「ハレの場」としてゴージャスさを売りにするために浴場を大規模化してしまったため、源泉を共同管理した上でしっかり循環利用しないと、旅館として成り立っていかない実情もあるのでしょう。これは当地のみならず、お隣石川県の加賀温泉郷など北陸の歓楽的温泉地でも同様の傾向が見られます。


 
前置きが長くなりましたが、上述のような状況にある芦原温泉において、放流式のお湯を手頃な料金で利用することは相当困難であることが予想されます。こうした温泉地では循環式のお風呂であっても、チョロチョロ程度でも生源泉を投入していたら「掛け流し」と銘打ってしまう施設が散見されますが、この場合は「むしろ微量でもお風呂で生源泉に触れることができたらラッキーだ」と発想を転換して、訪問前にあわら市観光協会の旅館紹介ページや各旅館のホームページを調べていたら、「源泉百パーセントかけ流し」と紹介されているお宿を発見したので、どんなお湯か自分で確かめるべく、そのお宿「芦原荘」へ赴いて日帰り入浴利用で立ち寄ってみました(※)。えちぜん鉄道のあわら湯のまち駅から徒歩2分程度の位置にあり、鉄道で旅行する者にとっては大変便利な立地です。
(※)お宿のホームページは2014年8月現在、閲覧できないようです)。


 
エントランスには日帰り入浴に関する案内が掲示されている他、フロント前には専用の券売機も設置されており、宿泊だけでなく入浴のみの利用も積極的に受け入れていることがわかります。なお芦原温泉の「湯めぐり手形」は利用不可のようですので予めご注意を。建物の外観こそ地味ですが、いくつものソファーが並べられたロビーは、結婚式場のホワイエのような大人っぽい寛ぎの空間が広がっていました。


 
浴室は1階と2階に分かれており、私が訪れた時には2階浴室が男湯に設定されていました。男女の札が簡単に取り外れるようになっているところから察するに、男女入れ替え制なのかもしれませんね。


 
さすが旅館だけあって脱衣室は管理がよく行き届いており、とても綺麗で衛生的です。室内ではエアコンで空調されている他、扇風機も置かれていますので、湯上がり後のクールダウン対策もバッチリです。


 
石板貼りの浴室は入口を挟んで左右に分かれており、脱衣室側から見て左側が広く、主浴槽の他にシャワーが10基、壁に沿ってコの字形に配置されています。



浴室入口そばにある「掛け湯」は、赤御影石の四角い槽が二重になっており、内側槽の底からぬるいお湯が上がって槽内を満たし、そこから溢れたお湯は外側槽に落ちて、更に床の下を潜って主浴槽へと流下しているようです(「掛け湯」近くの主浴槽側面には、それらしき穴がありました)。このお湯はおそらく源泉を使っているものと思われます。


 
赤御影石の縁取りが目に鮮やかな主浴槽は、14~15人同時に入れそうな容量で、壁に貼ってある小さなプレートが示すように40℃程の湯加減がキープされていました。壁側から2本のジェットバスがゴーゴーと音を立てながら噴射しており、その右側にある湯口から若干ぬるめのお湯が注がれていました。お湯の供給はこの湯口だけでなく、上述のように「掛け湯」からの流入や、底面での吐出も見られます。なお浴槽中央では湯面を盛り上げるほど勢い良くお湯が噴き上げられているのですが、これは明らかに循環湯でしょう。槽内ではお湯がしっかり吸引されており、湯船に人が入った時以外にオーバーフローはほとんど見られませんでした。


 
この主浴槽には小さな湯口もあって「湯元 源泉 ご自由にお飲みください」と記されています。チョロチョロと滴るお湯は直に触れるのが躊躇われるほど熱く(50℃以上はあるはず)、樋状の吐出口下部には白い析出が付着していました。備え付けのお玉にお湯を注ぎ、フーフーと息を吹きかけてよく冷ましてから飲泉してみますと、塩味とニガリ味が感じられ、湯気とともにふんわりと磯の香りが漂ってきました。飲泉できるのですから正真正銘源泉100%のお湯ですね。このお湯が完全掛け流しで張られている湯船があれば最高なんだけどなぁ…。


 
入口右側にもサブ的な浴室があり、こちらには8~9人サイズの副浴槽と、4基のシャワーが配置されていました。主浴槽は40℃程の入りやすい湯加減でしたが、この副浴槽は43~4℃という熱めの設定となっており、主浴槽と同様に中央から勢い良くお湯が噴き上げられているとともに、底面の穴からもお湯が供給されていました。でも、湯面を盛り上げるほどお湯が噴き上がっているにもかかわらず、人が入った瞬間以外にオーバーフローはほとんど見られませんでしたし、湯船のお湯も飲泉所の源泉よりはるかに個性が弱まっていましたので、こちらもお湯を循環させているのでしょう。


 
主副の2浴槽の他、一応露天風呂もあり、日本庭園風に装飾された空間いっぱいに四角い浴槽が据えられています。露天といっても壁・サンルーフ・ガラス窓などによって四方も頭上もガッチリ囲まれており、窓を開けることによって外気がそよぐ程度で、半露天というか露天風内湯と称したくなるような代物です。尤も当地は冬季になると厳しい吹雪が吹き付けますから、そうした気候条件を考慮した構造なのかもしれません。お風呂としては副浴槽とほぼ同様の大きさおよび湯加減となっており、湯使いもほど同様かと思われます。

各浴槽においてお湯は僅かに白っぽく微濁しており、ほんのり塩味が感じられるのですが、飲泉所のアツアツなお湯に比べるとどの浴槽でもパワーダウンが否めず、「源泉百パーセントかけ流し」という文言には首を傾げざるを得ませんでした。館内に湯使いに関する表示が掲示されていなかったので明言を避けますが、こちらの場合の掛け流しとは飲泉所に限定した表現なのかもしれません(もし事実誤認でしたら大変申し訳ございません)。とはいえ、入浴中は湯船から消毒臭は感じられず、食塩泉のツルスベ浴感と塩化土類泉らしいギシギシ&ベタつきがしっかり拮抗しており、お湯に浸かっていると短時間で心臓が激しく拍動して逆上せてしまい、湯上がり後にはなかなか汗が引きませんでしたから、含塩化土類食塩泉としてのパワーを発揮するれっきとした温泉であることには違いありません。


●湯のまち広場
 
あわら湯のまち駅と「芦原荘」の間には「湯のまち広場」という公園的なスペースが広がっており、芝生広場を中心として足湯や「藤野厳九郎記念館(情報コーナー)」、伝統芸能が演じられる舞台など、観光拠点としての施設が設けられています。


 
身も蓋も無いことを申し上げれば、この手の広場は観光地によくあるものですが、この中で私が白眉を感じたのが、「伝統芸能館」の前に設置されている、源泉が流されているこのオブジェです。一見すると手湯のようにも見えますが、ここから吐出されるお湯は火傷しそうなほど熱いため、とてもじゃありませんが手湯なんて楽しめません。おそらく温泉を見て楽しむためのものかと推測されるのですが、このお湯が実に素晴らしく、源泉100%と思しきこのお湯からは塩味やニガリ味の他、明瞭な硫黄感が伝わってくるのです。芦原温泉には源泉が約50箇所もあるそうですから、それぞれ個性が異なり、「芦原荘」とこのオブジェのお湯は別箇の源泉かと思われますが、アツアツの源泉が使われること無くただただ流されて排水されている様を眺めながら、このお湯だけが掛け流されている浴槽に浸かってみたいと強く願ってしまいました。あぁ勿体無い…。


温泉分析表見当たらず(おそらくナトリウム・カルシウム-塩化物温泉)

えちぜん鉄道・あわら湯のまち駅より徒歩2分
福井県あわら市温泉1丁目309  地図
0776-77-2110
(2014年8月現在ホームページは閲覧できませんが、営業していることは確認しています)

日帰り入浴11:00~22:00(受付は21:00頃まで)
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★+0.5
コメント (6)
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石引温泉 亀乃湯

2012年12月20日 | 石川県・福井県

金沢市街に掛け流しのモール系温泉が楽しめる銭湯があると聞き、当地で宿泊した某日、ホテルへ向かう前に立ち寄ってみることにしました。カーナビに導かれて到着したその施設は幹線道路沿いに建つ鉄筋造りの4階建てで、もう少し鄙びた銭湯を想像していた私は軽く虚を突かれてしまいました。1階部分は駐車場となっていますが、スペースが狭くて止められる台数も少ないので、もし車でいらっしゃる場合は、通りの反対側にある第二駐車場を利用した方がいいかもしれません。


 
1階から玄関に入って靴を下足箱に入れ、エレベータで3階へ上がります。



3階にも玄関があるのですが、住宅街に面していて商店街やバス通りにも近いこちらの方がむしろ表玄関なのかもしれません。



3階フロアは番台と浴室があるこの施設の心臓部のようです。券売機で料金を支払い、番台のおばちゃんに券を渡して暖簾をくぐります。番台の前にはちょっとした休憩スペースが確保されていました。



脱衣室は典型的な銭湯であり、温泉風情はゼロ。アルミ板の鍵のロッカーがたくさん並んでいます。昭和後期の街の銭湯そのものであるこの施設で、本当に温泉と出会えるのかな。

※私が訪問した時間は夜7時頃でして、浴室内には一日の汗を流して疲れを癒やしているお客さんがたくさんいらっしゃいましたから、今回浴室内は一切撮影していません。

浴室内もいわゆる銭湯そのもので、室内は全面タイル貼り。男湯の場合、右半分が洗い場で、押しバネ式カラン&固定式シャワーの組み合わせが21基、更には立って使うシャワーが2(あるいは3)基取り付けられています。一方、左半分は3つの浴槽が階段状になって前後一列に並んでおり、湯口のある奥側の浴槽から手前側の浴槽に向かってお湯が流れ、手前側浴槽から排水口へと落ちるような構造になっています。奥側浴槽はごく普通の浴槽、真ん中はジャグジー槽、手前側槽はジェットバスが取り付けられた二人用の座湯(体がフィットするよう背もたれ部分が半円形になっている)です。
いずれの浴槽にも褐色透明のモール系温泉が用いられていますが、循環濾過消毒されており、塩素臭もしっかり湯面から放たれています。でもモール系であることには間違いなく、はっきりとしたツルツルスベスベ浴感が楽しめました。
また、浴室内にはこうした温泉浴槽の他、サウナと小さな水風呂も設置されており、訪問時もサウナでは多くのお客さんが汗を流していました。



こちらの銭湯では露天風呂も利用できちゃうのが嬉しいところなのですが、露天といってもサンルーフでガッチリ周囲を覆われているので、外気が入ってくる程度の「露天っぽいお風呂」に過ぎません。でもこの露天風呂が秀逸なんですね。
猫に額みたいな限られたスペースに歪んだ台形の浴槽(3人サイズ)が据えられており、浴室側の壁には押しバネ式カランが3基取り付けられています。



「亀乃湯」という名前に因んでか、亀の造形が側面にへばりついている飲泉場が浴槽傍に設けられており、チョロチョロながらも源泉そのままのお湯をその場で口にすることができました。典型的なモール泉らしい重曹的な清涼苦味に加え、マイルドだが明確にわかる甘塩味も感じられます。



湯船から上へ立ち上がったパイプから打たせ湯のように源泉が湯船へ落とされています。その口にはタオルが巻かれていました。でも口からほぼ垂直にお湯が落ちちゃっているため、ここで打たせ湯を浴びようとしても難しいかも。
源泉の投入量は多く、浴槽の縁からふんだんにオーバーフローしています。加温非循環濾過消毒は一切ない完全掛け流し。非加温ゆえ夏以外はぬるく感じてしまうため、私が訪れた秋の某日も利用者は少なかったのですが、あえてここのお風呂に浸かろうとする人は皆さんじっくり長湯なさっています。私はぬる湯が大好きなので、内湯よりむしろこちらのぬるい露天でひたすら長湯させてもらいました。琥珀色透明のお湯は典型的なモール泉の特徴を呈しており、お湯から放たれる芳しいモール臭が鼻をくすぐり、入浴中には明瞭なツルツルスベスベ感、湯上りにはさっぱりとした清涼感が私を魅了してくれました。しかも食塩泉としての性格も兼ね備えているため、清涼感とともに食塩泉的な持続的温浴効果も発揮。一挙両得なお湯でした。街中の銭湯でこんな素晴らしいお湯に入浴できるだなんて、ご近所の方が羨ましい限りです。


石引温泉1号泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 35.2℃ pH8.2 111L/min(動力揚湯) 溶存物質2.406g/kg 成分総計2.441g/kg 
Na+:735.0mg(94.94mval%),
Cl-:580.7mg(51.99mval%), HCO3-:893.0mg(46.46mval%),
H2SiO3:114.6mg, CO2:35.3mg,
内湯:加温している・循環ろ過装置使用・塩素系薬剤使用
露天:非加温・循環ろ過消毒無し

金沢駅から路線バスで小立野下車
石川県金沢市石引2-15-31   地図
076-262-4126

12:30~23:30
420円
ロッカーあり・ドライヤー有料(20円)、各種入浴用具販売あり

私の好み:★★
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白山杉の子温泉

2012年12月19日 | 石川県・福井県
 
金沢市街から鶴来を通って白山スーパー林道方面へ向かう途中、その道中である国道57号沿いに位置している日帰り入浴専門施設「白山杉の子温泉」を利用してまいりました。倉庫のような無骨な2階建ての建物からは温泉らしい印象を受けませんが、それもそのはず、こちらはそもそも木工関係の会社施設であり、社員の福利厚生を目的として水道用の井戸を求めるべく鑿井したら温泉が湧出したんだそうです。


 
玄関を入ると漆器などの木工品の他、地元の農家が作った野菜が直売されていました。木工品はこちらの施設の運営会社によるものでしょうけど、野菜はセルフで代金を缶に投入する無人販売スタイルでした。


 
受付のまわりでも種や食品類などいろんなものが販売されており、田舎のお風呂らしいとってもほのぼのとした雰囲気でした。そこから数段ステップを上がったところにおばちゃんが座ってる受付カウンターがあり、そちらで直接料金を支払いました。



脱衣室はこじんまりとしており、設備関係は洗面台が一台あるほか、カゴが収められてる棚が設置されているだけで、まるでジモ専を思わせるような至って簡素な造りです。


 
化成の壁材が用いられている浴室は(大変失礼ながら)安普請っぽく、仮設浴場のような佇まいすら漂わせています。
室内の右側にはシャワー付き混合水栓が5基一列に並んでおり、お湯のコックを捻ると源泉が出てきました。
建物自体は低コストで普請されたような感が否めませんが、一湯入魂と言うべきか、浴槽には檜の立派なものが据えられています。浴槽は前後に二分されており、手前側は2人サイズで半身浴になる浅い造り。一方奥側は全身浴ができる一般的な深さで3人サイズです。この奥側槽の内部にはステップが取り付けられているのですが、何故か脱衣室側半分のみで窓側には設けられていないので、ステップがあるつもりで窓側から浴槽に入ろうとしたら、思いっきりバランスを崩してしまいました。相変わらずそそっかしい私…。


 
両浴槽に跨るような感じで中央に湯口が据えられており、両方へ無色透明な源泉を注いでいます。嬉しいことに完全掛け流しの湯使いです。なお手前側の浅い浴槽には加水用の水道蛇口がありますが、奥側の全身浴槽には無く、この日は手前側槽にも加水は行われていませんでした。
完全掛け流しの他、飲める温泉であることもこちらの温泉のアピールポイントであり、湯口に置かれたコップで実際に飲んでみますと、ほぼ無味無臭であっさりしていますが、ちょっと甘みが感じられ、微かに石膏味も有しているようでもあり、ほんの僅かに塩味も帯びているようにも思われましたが、塩味に関しては自分の汗だったかもしれません。
入浴していると肌に薄く気泡が付着し、癖のないサラサラとした浴感が気持ちよく、湯上りもさっぱり爽快です。


白山杉の子温泉1号源泉
アルカリ性単純温泉 43.7℃ pH9.2 193L/min(動力揚湯) 成分総計0.963g/kg
Na+:232mg(74.25mval%), Ca++:69.3mg(25.46mval%),
Cl-:195g(36.38mval%), SO4--:389mg(53.56mval%),
H2SiO3:38.6mg,
(昭和62年12月25日分析)

鶴来駅・松任駅・金沢駅より加賀白山バスで女瀬行あるいは白山体験村行(女瀬経由)に乗車し佐良バス停下車
石川県白山市佐良タ121  地図
07619-5-5873

9:30(土日祝9:00)~20:00
420円
ドライヤーあり、他備品類なし

私の好み:★★★
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廃墟になっていた犀末温泉(2012年10月下旬)

2012年12月18日 | 石川県・福井県

金沢の郊外にマニアック受けするB級な温泉があると知り、湯涌温泉方面で湯めぐりをした2012年10月下旬某日、その帰りに立ち寄ってみることにしました。場所はほぼ特定できていたので、プリントアウトした地図を片手に現地へ近づいてゆくと、ネット上の情報から得ていた通り、目の前に「通行禁止」の看板が立ちはだかる農道が現れました。この「通行禁止」バリケードの両側路面に轍が残っていることからもわかるように、軽はもちろん普通車でも通り抜けることができますので、そこを通って農道を更に奥へと進みます。



しばらくは河原に広がる耕地の真ん中を走りますが、やがて耕地は尽きて藪ばかりの荒地となり、道路も非舗装となりました。非舗装だけならともかく、路面はドロドロで深い水溜まりも点在しており、両側からは藪がせり出ていてかなりの悪路です。私の車は普通のFF車ですから「もし駆動輪が泥や水溜まりにハマったらどうしよう」とビクビクしながらハンドルを握っていたのですが、そんな臆病な私をせせら笑うように、車体からは藪が擦れる嫌な音が響いてきます。後で車体をチェックしたら、しっかりと傷がついていました。



悪路を突き進むこと数百メートルで、施設名が手書きされたテントが右手に見えてきましたが、字が消え掛かっているそのテントは雑草のツルで隠れちゃっています。



途中で右折して目的地に到着です。この施設前にあった急な段が一番スタックしやすく、実際に車の底を軽く擦っちゃいました。施設の周囲には生活臭漂う物から粗大物まであらゆるゴミが散乱しており、施設自体も生い茂る雑草に埋もれています。はっきり言っちゃえば、完全に廃墟のゴミ屋敷です。建物にはちゃんと「犀末温泉」と書かれていますが、本当にこんなところで大丈夫なのか? この日、犀川の河原には気持ち良い青空が広がっていましたが、そんな天気とは裏腹に私の心には暗雲が立ちこめはじめました。




建物の前には車内にキーがささったままの白いバンが一台止まっていたので、こんな状態でもどなたかいらっしゃるのだろうと思いながら戸を開けるみると、電灯がひとつ灯っていましたがいくら声を掛けても誰も出てこず、室内には足の踏み場もない程いろんなものが散乱して雑然としており、溜まった多くのゴミ類からは異様な匂いが放出されていました。下手に奥へ踏み込んで事件性があるような光景を目にするのは御免蒙りたいのですし、このままでは埒があかないので、ひとまず外へ出ることに。



でもせっかくここまで来たのですから、お風呂だけは自分の目で見ておきたいという欲求が沸き起こってきたので、不本意ながら無許可のまま裏手の崖上に建つ浴室棟へと行ってみることにしました。そこへ向かう通路は完全に深い雑草に覆われており、藪こぎをしないと前へ進めません。浴場へは相当長い間、人が立ち入っていないことがわかります。
ようやくたどり着いた浴場棟ですが、戸を開けてみると妙にガランとした空間が広がっていました。既にイヤな予感はほぼ確信に変わっていましたが、念の為に奥へ足を踏み入れてみると…


 
脱衣室は案の定、虚しい光景が…。



浴室引き戸のガラスに貼られていた「掛け流し温泉」の文字が虚しい。


 

浴室は完全に廃墟と化しており、浴槽は空っぽ、至る所に落ち葉が吹き込み、ゴミや虫の死骸があちこちに転がっていました。



窓の外には露天風呂があるはずですが、雑草が茂って視界を遮り、何にも見えません。この藪の深さや高さが、温泉の廃業からどのくらいの時間が経過しているかを物語っているようでした。

まだローン返済中の愛車を傷つけながら訪問した犀末温泉ですが、残念ながらこのような惨憺たる有様となっており、入浴なんてできるような状態ではありませんでした。その後改めてよく調べたら、少なくとも昨年(2011年)の時点で既に廃業していたようですね。事前にしっかり調べずに出かけると今回のように骨折り損を被ってしまうわけです。温泉めぐりをしていると、しばしばこのような残念な結果に終わることも少なくないのですが、こちらのようなマニアック受けする温泉に関しては休廃業の情報が少ないため、遅ればせながらその事実をお伝えすると共に、愚かな私の失敗を笑っていただきたく、今回紹介させていただきました。


コメント (2)
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曲水温泉 曲水苑

2012年12月17日 | 石川県・福井県

金沢市街から湯涌温泉へ向かう途中、県道から水田の広がる谷を下って反対側の丘へ上がった先の集落にある一軒宿「曲水苑」は、その佇まいから民家かと勘違いしてしまいそうですが、実は秘湯を守る会の会員宿なんだそうでして、山奥のアクセスしにくい秘湯とは別の意味の、周囲の民家に紛れて存在感を潜めてる隠れキャラ的な意味合いで、確かに秘湯と言えそうなお宿であります。今回はこちらで日帰り入浴させていただきました。



私が訪れたのは日曜の昼下がりでしたが、毎週日曜にはメロンパンの移動販売車がやってくるらしく、この日もフランス国旗のようなトリコロールのテントを張ってメロンパンやアイスを売っていました。お風呂から上がったら一つ買っていこうかと一瞥すると、テントで店番をしていた一人のお兄さんがやってきて、私が日帰り入浴の客だとわかると入浴料金を徴収していきました。この屋台はお宿の方が商っていらっしゃるのかしら。



母屋に隣接している低い屋根の、暖簾が掛かった木造の小屋が浴場です。館内には小さな帳場もあり、通常はこちらで料金を支払うようです。


 
ガラスの向こうに内湯が見える脱衣室にはロッカーとカゴが備え付けられており、客の好みに応じて両方使うことができます。さすがに旅館らしく、手入れがよく行き届いており気持ちよく利用できました。


 
内湯はかなりこじんまりしており、室内には木造の浴槽がひとつ、そしてシャワー付き混合水栓が3基据えられています。シャワーは吐出の水圧がちょっと弱めでした。


 
短い樋の湯口から源泉が落とされていますが、湯温がやや低いため、浴槽内には加温用の循環吸引&吐出口が開けられていました。循環といっても加温するだけでして、濾過や消毒を目的としたものではありません。



露天風呂は集落の下方に広がる水田やその山の緑を一望できる大変見晴らしの良いロケーションです。


 
狭い内湯を補完するためか、こちらにも洗い場が設けられていました。内湯と違って、こちらのシャワーはお湯が勢い良く出てきました。また周囲を囲う塀には編み笠が掛けられており、雨や雪の日にはこれをかぶって湯浴みするわけですね。


 
常時加温の内湯と異なり、露天は冬を除き原則的に加温なしの完全掛け流しのようです。
お風呂の脇には笠掛けされたポンプが据え付けられており、それにつながる塩ビのパイプからお湯が泡を上げながら浴槽の底で吐き出されていました。てっきりこのポンプは揚水ポンプで源泉を汲み上げているのかとおもいきや、吐出口の傍にも塩ビパイプがあって、その口を手で塞いでみたら吐出も止まってしまったため、ポンプは揚水用ではなく循環ポンプであることが判明。冬季は39℃くらいまで加温するそうですが、この循環装置によって冬季にかぎらず温度調整が行われているのかもしれませんね。循環といっても温度調整するだけですから、お湯の質感が損なわれるようなことはほとんどありません。

お湯は無色透明で湯中では焦げ茶色の膜を細切れにしたような湯の華が浮遊しており、、口に含むと塩辛さとニガリの味がはっきり感じられ、お湯を手で掬って鼻に近づけてみると磯のような香りと非鉄系の金気臭がほんのり湯面から放たれていました。ツルスベの中に引っかかりが混ざる浴感で、ぬるめですが食塩パワーによって力強い温浴効果が発揮されるので、湯上りはとても良く温まり、何時まで経っても汗が引きませんでした。
湯涌温泉から比較的近いにも関わらず、それとはかなり異なる塩辛いお湯を楽しめるところが面白いですね。温泉水を煮詰めたらいわゆる山塩ができるかもしれません。温かみのある木造の内湯と景色の良い開放的な露天、それぞれでしょっぱい温泉に湯あみできる素敵なお風呂でした。


1号泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 46.7℃ pH8.3 81.3L/min(動力揚湯) 
Na+:3860mg(63.30mval%), Ca++:1903mg(35.79mval%),
Cl-:9255mg(95.70mval%), SO4--:521mg(3.98mval%),

石川県金沢市七曲町ハ132-1  地図
076-235-1717

平日10:00~22:00、土日祝9:00~22:00(日曜は朝7:00~) 火曜定休
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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