温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯涌温泉 銭がめ

2012年12月16日 | 石川県・福井県
 
金沢の奥座敷である湯涌温泉には「総湯 白鷺の湯」という有名な日帰り入浴施設がありますが、今回はそちらへ寄らず、更に奥の方へ進んだ県道沿いに位置する「銭がめ」で入浴してまいりました。施設のホームページや各種案内を拝見しますとこちらの施設も湯涌温泉の一部に含まれているようですが、明らかに温泉郷とは一線を画したほうが良いような、かなり離れた一軒宿というべき立地であるように思われます。重厚感のあるこちらの伝統建築は、そもそも加賀藩主(前田家)が鷹狩りの休憩所として使用していたらしい庄屋屋敷だったそうが、ちょっと変わったネーミングは加賀藩と何か関係があるのでしょうか。



川魚料理などをメインにしたお食事処としての営業が主体のようでして、館内には囲炉裏や個室などが設けられており、数年前には宿泊業も兼業するようになったんだそうです。入浴利用者は食堂の玄関から中へとお邪魔します。



苔むした古風な趣きの玄関は宿泊棟の入り口でしょうか? 剣道の道着をまとったカカシが、頭に子供用のカラフルな傘を装着し、両手で竹刀を構えながら、玄関前で直立不動で立ち尽くしていました。用心棒でもしているのかしら。



玄関を入ってすぐ左手にある受付で料金を支払います。玄関の右手には食堂の座敷が奥へと広がっており、その手前には川魚が泳ぐ生簀が据え付けられていました。入浴客は受付の左奥で下足を脱いで、廊下を進んでゆきます。


 
綺麗で落ち着いた雰囲気の館内。浴室の入口付近にはマスコミ取材の際に贈られたサインが掲示されていました。地元の局アナや関西方面で活躍するタレントさん(レツゴー三匹・海原はるかかなた・横山ホットブラザーズなど何故か松竹系が目立っていました)など、東日本ではあまりお目にかかれない方が多かったように記憶しています。


 
浴室へ入らず、廊下の突き当りまで進んでみると、窓の外には昔の農家の裏庭のような寓話的光景が広がっており、古い蔵から鶏がコケコッコと啼きながらヒョコヒョコと出入りしていました。



さてお風呂に向かいましょう。男女別の内湯のみで露天はありません。脱衣室は洗面台が2台あり、清掃がよく行き届いています。室内にはロッカーが設置されていますが、肝心の鍵な無く、利用時は施錠することができませんでした。もしかしたら鍵は受付で借りるのかもしれませんね。



小川が流れる谷を見下ろす大きなガラス窓によって太陽の光が燦々と降り注ぐ明るい浴室。ガラス窓とその対面に当たる出入口側の壁面には石板タイルが、その左右となる浴槽側と洗い場側の壁面には木材が用いられており、こうした天然の材質を活かしたシンメトリな内装によって上品な雰囲気が醸しだされています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が4基設置されており、シャワーから出てくるお湯はおそらく源泉だろうと思われます。
4人サイズの浴槽は全てが古代檜で造られており、上質な木材ならではの温かみと重厚感を兼ね備えており、浴槽に身を沈めて肌が槽に当たった時の優しく滑らかな感触が何とも言えません。



湯口からは源泉100%のお湯が注がれています。一見すると投入量はそれほど多くは無さそうですが、浴槽の縁からは絶え間なくお湯がオーバーフローして洗い場へと流れているので、少ないように見える投入量は、実は浴槽の容量に見あっているのかもしれません。なお槽内には循環用と思しき吸引&吐出口が設けられていましたが、私の訪問時には使われておらず、ほぼ完全な掛け流しの状態であったかと思われます。

お湯は無色透明で弱い塩味と共にごく薄いタマゴ味&匂いと石膏味が感じられ、湯口では微かにミシン油臭が香っていたような、いないような…。サラサラとツルツルの中に硫酸塩泉的な引っ掛かりが混在しているような浴感なのですが、驚くべきは夥しい泡付きでして、入浴するとたちまち全身がびっしりと泡で覆われます。拭っても拭ってもすぐ再び付着し、この泡のパワーによって全体的な浴感としてはスベスベが優っているように体感し、泡の魔力に捕らわれて、湯船から出ようにも出られなくなるほど気持ちのよいお湯でした。このため湯船は丁度良い湯加減だったにもかかわらず、湯上りにはすっかり茹だってしまい、全身がしばらく火照ってなかなか汗が引きませんでした。いや、長湯をせずとも、保温効果は優れているかと思います。金沢の奥座敷に相応しい、とってもハイクオリティのお湯でした。


ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 44.2℃ pH8.8 107L/min(動力揚湯) 溶存物質1.891g/kg 成分総計1.894g/kg
Na+:422.6mg(78.70mval%), Ca++:94.9mg(20.28mval%),
Cl-:348.4mg(31.15mval%), SO4--:726.8mg(52.57mval%), HCO3-:155.0mg(8.05mval%), CO3--:75.0mg(7.92mval%),
H2SiO3:35.5mg,

石川県金沢市板ケ谷町イ50  地図
076-235-1426
ホームページ

11:00~21:00 月曜定休(祝日は営業)
500円
ロッカーあり? シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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親谷の湯

2012年11月01日 | 石川県・福井県
 
絶景露天風呂として夙に有名な「親谷の湯」ですが、私はいままで一度も訪れたことがありませんでした。なぜなら現地へアクセスする唯一のルートである「白山スーパー林道」の料金がアホみたいに高いから・・・。尤も普段はその通行料金をはるかに上回る散財を繰り返してダラシナイ生活を送っているのですが、わずか33キロの道のりのために3000円以上も支払わなきゃいけないと思うと、どうしても躊躇せざるを得ませんでした。

しかし石川県では昨年に続いて今年も「温泉に泊まって片道無料キャンペーン」を実施しており、某日に宿泊した新岩間温泉「山崎旅館」もそのキャンペーンの対象施設でしたので、チェックアウトの際にスーパー林道を利用する旨を申し上げたところ、宿の方が利用の手順について説明してくださいました。利用者が宿泊施設にて所定の申請書に必要事項を記入しますと、宿側でその申請書に印紙や印鑑を捺してくれますので、利用者は各自で料金所手前の中宮レストハウスへ申請書を持参します。



するとレストハウスで申請書と引き換えに無料通行券を入手することができる、というわけです。少々面倒なのですが、これで3000円が浮くのですから、ありがたいものですね。


 
通行料金は浮いたものの、あいにくこの日は前線通過により全国的に荒れた天気となってしまい、北陸地方も未明には嵐のような風雨に見舞われ、日中でも冷たい雨が一瞬たりとも途切れること無く降り続きました。
今回の目的地である「親谷の湯」駐車場に到達しても、広い駐車場には私の車がポツンと1台とまっているだけ。紅葉シーズンには混雑するという情報を仕入れていたのですが、わざわざ雨がそぼふる肌寒い時に露天風呂へ入ろうとする奇特な人間なんて、私以外にはいないのでしょう。車から傘を取り出してゲートへと向かいます。


 
皆様ご存じのように、親谷の湯へは長い階段を下って谷底へ行く必要があるため、わざわざゲートにはストックが用意されていました。これで足腰に自信が無い方でも多少は助かるんじゃないでしょうか。


 
雨に煙る蛇谷の谷底へ向かって一気に階段を下ってゆきます。秋雨にしっとりと濡れた紅葉も乙じゃありませんか。
ちなみにこの階段に向かって正面の方向へまっすぐ伸びている細い谷が、温泉名の由来となった親谷なんだそうです。



階段の途中の手摺りに括り付けられた案内の内容には我が目を疑いました。足湯や露天風呂に利用している温泉の湧出量が低下してるために、源泉を汲み上げるポンプの運転は土・日・祝のみに限るとのこと。折角平日に休みをとったのに、その苦労は無駄になってしまうのか。とりあえず現地まで行ってみることにしましょう。
その後、10月25日より自噴が復活して平日の利用も可能となりましたが、まだ不安定のために自噴が止まった場合は利用中止となります。なお週末や祝日はポンプを運転させるため自噴の有無にかかわらず利用可能です。


 
階段を下りきるとちょっとした広場となり、そこに立っている道標によると、親谷の湯までは更に川沿いを356m歩いてゆくとのこと。356って、なんて細かい数字だこと。


 
蛇谷沿いのトレイルを上流へ向かって歩いてゆきます。晴れていたらさぞかし爽快な道なんだろうな。


 
日本の滝百選に選出されている姥ヶ滝に到着です。一般的な垂直に落ちる滝は高度感がおよぼす迫力に圧倒されますが、この姥ヶ滝は横幅の広い岩肌を滑らかに滑り落ちているので、高度感はもちろんのこと、奥行き、ボリューム感、そしてジュディーオングが「魅せられて」を歌うときのステージ衣装のような、絹糸が谷へ向かって扇状に広がっているような雅やかな姿が非常に美しく、滝を眺めているうち、女性的な魅力で包み込まれているような気分になりました。


 
滝の前には足湯が設けられており、滝を目の前にしながら足湯を楽しめるという素晴らしいロケーションですね。はぁ、雨が降っていなければ・・・。
足湯の上にはトイレとベンチが設けられたコンクリ造の小屋があり、その一角には更衣用テントまで用意されていました。ステッキといいテントといい、至れり尽くせりじゃないですか。


 
さて本命の親谷の湯露天風呂へとやってきました。お風呂の前には衝立があって、これが一応の更衣スペースとなっているようですが、屋根は設けられていませんから雨露を凌げるようなものではありません(尤も、雨の時にこんな急峻な渓谷へ足を踏み入れる危ない人は稀でしょうから、屋根を設ける必要なんて無いんですけどね)。
衝立には湯加減調整に関する説明が掲示されており、熱ければ湯口のお湯を竹の樋で外へ逃がしてほしいと書かれていました。


 
露天風呂も足湯同様に姥が滝を真正面に望む凄いロケーションなんですね。こりゃ誰しも絶賛するのは当然だ。



源泉が出てくる湯口は付近の中宮温泉のような淡黄色に染まっており、土日祝しか揚湯ポンプは運転させないとのことでしたが、チョロチョロながらもその湯口からは熱い源泉が落とされていました。


 
源泉投入量はチョロチョロで、しかも頻りに雨が降っており、外気温もわずか10.3℃・・・。湯船は水同然なのではないかと、もうこの時点で入浴は諦めていましたが、湯舟の温度を計ってみたら意外にも36.6℃と、ぬるいながらも入れる湯加減でしたので・・・



誰も来ないのを好都合に、足湯上の小屋で全裸になった上で、すっぽんぽんのまま露天風呂まで歩いて入浴してみました。日本屈指の滝を目の前にして湯あみできるこの露天風呂は、たしかに唯一無二の素晴らしい環境でしょうね。でも、何度も繰り返しますが、晴れていれば絶景ですけれども、この時はお湯はぬるい、外気は寒い、冷たい雨が頻りに降っている、滝飛沫がじゃんじゃん掛かって冷たい、という寒冷四拍子が揃っていたため、とてもじゃないが絶景もお風呂も楽しめる状況では無く、たちまち頭痛と悪寒に見舞われたので、非常に残念でしたが今回は早々に撤退となってしまいました。



入るだけが温泉の楽しみではない、見て楽しむ方法だってあるのだ、そう自分に言い聞かせて、体を冷やす水滴を拭って服を身に纏ってから、更に周辺を散策することにしました。露天風呂の周辺には「噴泉塔がある」と書かれた案内が掲示されており、その案内が導く上流の方へと歩いてゆくと、まず谷の対岸に噴泉塔をひとつ発見。


 
ロープに掴まって川岸へ下りると、こちらがわの岸にも更に噴泉塔をひとつ見つけることができました。岩間の噴泉塔群とは比較にならない小規模なものですが、岩間と違って延々と登山道を歩くことなく、気軽に本物の噴泉塔を見学することができるのですから、多くの観光客にとってはむしろこちらの噴泉塔の方が身近に感じられるのではないでしょうか。


 
露天風呂へ向かう直前にはこんな分岐があって、ここから川へ下ってゆくと・・・


 
そこには、現在の露天風呂が供用される以前の昭和59年まで使われていた天然岩風呂がありました。が、昨夜から降り続く雨のために川はすっかり増水しており、普段は熱いお湯を岩から湧出させている岩風呂も、この日ばかりは完全に水没してただの川の一部と化していました。従って今回こちらでの入浴は不可能。

今回は入浴こそ果たせたものの、悪天候のために非常に不本意で残尿感のある訪問となってしまいました。通行料金の高さがどうしても再訪を阻む心理的な障害となってしまいますが、懐と時間に余裕が生まれたら是非再訪して、多くの温泉ファンが味わった感動を私も後追いしたいと思います。



なお、私が訪れた10月下旬、ふくべの大滝から上が紅葉の見頃を迎えていました。この画像はふくべの大滝です。


 
 
こちらは大滝の上部、岐阜県との県境付近です。あまりに見事な紅葉だったので、思わずカメラを片手にしながら絶叫しはいました。この記事が投稿される時期ですと、紅葉の盛りは中宮温泉付近まで下りてきているかと思います。


親谷温泉(1号源泉)
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 99.0℃ pH7.9 73.0L/min(自噴) 溶存物質1.478g/kg 成分総計1.483g/kg
Na+:383.0mg(93.27mval%),
Cl-:290.2mg(44.01mval%), HCO3-:501.1mg(44.12mval%),
H2SiO3:163.3mg,

石川県白山市中宮オ11-2
白山スーパー林道ホームページ
(白山林道石川管理事務所:076-256-7341)

スーパー林道の通行時間でしたら入浴可能(時間に関しては公式HP参照のこと)
無料(でもスーパー林道の通行料金必要)

私の好み:★★★
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中宮温泉 くろゆり荘

2012年10月31日 | 石川県・福井県
 
白山スーパー林道の石川県側の起点である中宮温泉には3軒の旅館が営業していますが、その中でも一軒だけ離れた高台に位置しているお宿「くろゆり荘」にて日帰り入浴してきました。こちらは旧吉野谷村(現白山市)が建てた建物を中宮温泉旅館協同組合が管理運営している公共施設なんだそうです。温泉ファンのブログなどを拝見しておりますと、多くの方は秘湯を守る会会員である「にしやま旅館」を訪れているようですが、物心ついたときから重度の天邪鬼である私は、今回敢えてネット上におけるレポートが少なく、また公共施設ということでやや色眼鏡を通して見られがちなこの「くろゆり荘」を選ばせていただきました。

冒頭からいきなり余談ですが、「昭和のいる・こいる」ののいるさんって、中宮温泉がかつて属していた吉野谷村の出身だったんですね。今回記事を書くにあたっていろいろと調べていたら、初めてその事実を知りました。演芸や落語が好きな私にとっては、当温泉の歴史よりもそちらの事実の方が断然関心度が高いのです。


 
「くろゆり荘」から中宮温泉中央の駐車場方面を眺めると、駐車場の向こうに1軒の土産物屋と他2軒の旅館が建っているのがわかります。幼い頃から判官贔屓で孤独を求める私は、人気の2軒から離れてポツンと佇む孤高の「くろゆり荘」に親近感を抱かずにはいられません。
駐車場隅の斜面下には温泉が汲める水栓があり、その傍らには寸志箱が括り付けられていました。建物前の駐車場はちょっと狭く、先に2~3台止まっているとかなり窮屈ですので(転回も難しい)、ハンドル裁きに自信の無い人は、坂の下の駐車場に止めちゃったほうがいいかもしれません。


 
自動ドアの玄関を入ると、いかにも公共施設らしい窓口で作務衣姿の女将が明るく出迎えてくれました。玄関正面のラウンジには縦に長い長火鉢が置かれています。公共施設というので、てっきり無味乾燥とした雰囲気を想像していたのですが、実際に中へお邪魔してみると、全体的な造りこそ昭和の公的物件らしい設計ですが、それを打ち消すように館内にはいろいろなものが展示され、あるいは飾られていて、あたかも民宿のようなアットホームな雰囲気が横溢しており、スタッフの方々の心のぬくもりが伝わってくるようでした。



浴室へ向かう廊下の右手にはお座敷がありますが、こちらは有料の休憩スペースとなっているようです。


 
昭和56年竣工の建物とあって、どうしても経年による古臭さは否めませんが、さすがに宿泊施設ですから脱衣室は綺麗に維持されています。天井にはかなり古い扇風機が設置されていて、スイッチを入れるとちゃんとグルグル回ってくれます。棚の数は比較的多く用意されていますが、鍵付きは上段の一部しかないのが玉に瑕。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ(露天は無し)。大きなガラス窓に面した浴室には外の光が燦々と降り注いで、照明要らずの明るい室内です。建物自体は高台に位置しており、窓の外を眺めると下方にスーパー林道の路面や、その向こう側に聳える山々を目にすることができますが、すぐ前に大きな木々が茂っているため梢や葉に視界を遮られ、気持ちよい眺望が得られるわけではありません。
洗い場は浴室に左右に分かれており、混合水栓が計8基、うち5基はシャワー付きです。浴槽は小文字のbを横に倒したような形状で、幅の狭い右側は浅く、広い左側は一般的な深さとなっていました。


 
男女両浴室を仕切る石積みの壁から小さな石板に囲まれた竹筒の湯口が突き出ており、弧を描きながらドボドボと源泉が湯船へ落とされています。湯口周りには細かな鱗状の温泉析出がコンモリと付着しています。湯口の真下には洗い場の床に向かって斜めに下ろされている樋がくくりつけられているのですが、私の利用時にはこの樋へお湯が流れるようなことはありませんでした。


 
しかしながら、この樋の内側にも湯口周りと同様に千枚田状の析出がしっかりと現れていましたから、浴槽の清掃時などには湯口のお湯をこの樋へ逃がしているのかもしれませんね。浴槽のお湯は右端の切り欠けから排湯されているのですが、人が湯舟に入ればしっかりとオーバーフローするためか、浴槽の縁は石灰のコーティングにより象牙色に染まり、湯船側は小さな庇のように析出がせり出ていました。また画像に写っているように湯船に接している床は千枚田状態に石灰華がびっしりと現れていました。

胃腸に良い飲めるお湯として有名な中宮温泉ですが、見た目は橙色がかったベージュ色を薄く帯びた笹濁りで、湯口に置かれたコップで実際に飲んでみますと、泉質としては含重曹・食塩泉ながらも、石灰の析出がびっしりこびりついていることからもわかるように重炭酸土類泉的な匂いや味、そして薄い塩味と微苦味、更には微酸味(炭酸由来?)が感じられました。また浴感も典型的な重炭酸土類泉のそれ、つまりキシキシと引っかかる感触でした。
これだけしっかり析出が現れているにもかかわらず、カルシウムイオンが83.1mgしか含まれていないのが意外です。浴室内で見られる千枚田の析出は、当施設がオープンした当初から長年にわたってじっくりと少しずつ積み重ねて出来上がったものなのかもしれませんね。

お風呂は内湯しかありませんが、飲泉可能な良質な源泉を掛け流しで利用できる、とっても気持ちの良いお風呂でした。また公共施設だけあって、宿泊料金は平日が7,250円から、土日は7,800円からと、他のお宿に比べてかなりリーズナブルな設定であるところも高く評価できますね。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 61.0℃ pH6.8 130L/min(自噴) 溶存物質3.337g/kg 成分総計3.566g/kg 
Na+:855.0mg(82.38mval%), Ca++:83.1mg(9.19mval%),
Cl-:1086mg(65.58mval%), HCO3-:846.4mg(29.70mval%),
H2SiO3:209.9mg, CO2:228.3mg,

石川県白山市中宮ク5-32  地図
076-256-7955

日帰り入浴時間10:00~15:00?(ご利用の際に確認願います)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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新岩間温泉 山崎旅館

2012年10月30日 | 石川県・福井県
 
岩間噴泉塔群の見学(その1その2)や岩間温泉元湯の露天風呂を他の楽しんだ後は、今年の初夏に7年ぶりの復活を果たした「山崎旅館」で1泊お世話になりました。



玄関では秘湯を守る会の提灯と並んでコグマちゃんがお出迎え。


 
客室へ上がる階段の踊り場には、マジックミラーというのでしょうか、表面がS字形に波打っていて写る対象が変形して見える鏡が括り付けられています。宿のオーナーの遊び心なんでしょうね。



2階へ上がりきってすぐ右手には「娯楽室」と名付けられた広間があり、そのど真ん中には卓球台が置かれていました。温泉旅館と言えば卓球ですよね。


 
また、部屋の片隅にあるバーカウンター跡とおぼしきところには、骨董品的な内線呼び出しの電話機が置かれていました。かつてはこちらで使われていたのでしょうか。



今回通されたお部屋はこちらです。残暑がいつまでも長引いた今年の秋ですが、さすがに山奥だけあって朝晩は気温が一桁まで冷え込むため、お部屋にはこたつがセッティングされています。空調の類いが全くない館内ですから、底冷えする晩にこたつはありがたい存在でした。
山崎旅館では、従来からの和室(トイレ・洗面台共用)と、今年改装されたばかりの綺麗な別館(トイレ付)の2種類の部屋を選べるのですが、前者は1泊2食で10,000円であるのに対し後者は17,000円なので、爪に火を点すような赤貧生活を送っている私にとって7,000円の差は大きく、今回は前者を選択することにしました。6畳の和室には上述のこたつとちゃぶ台があるだけで、テレビなどは無く、窓には網戸も無く(別館には網戸あり)、ちょっと風が吹けば窓ガラスがガタピシと音を立てる、いかにも秘湯の宿らしい古く鄙びた佇まいなのですが、コンセントが4口(うち1口はコタツ用)使えたのは、デジカメや携帯を充電する上でとても助かりました。


 
毎度のことながら、花より団子、腹が減っては戦はできぬ、ということで、お風呂の紹介に先立ってまずはお食事から。
夕食。朝食とも1階の別室でいただきます。画像左は夕食全景でして、真ん中にニジマスの甘露煮、そしてゼンマイのクルミ和えや水煮の蕗などが並べられています。画像右は土鍋でいただくイノシシ肉の味噌焼きです。


 
焼きたての香ばしいイワナの塩焼き(画像左)やジューシーなニジマスのさしみ(画像右)は、私が食事をはじめるタイミングで厨房から持ってきてくださいました。川魚らしくない肉厚な身と臭みの無い旨味には思わず舌鼓を乱打したくなります。肉・魚・菜、いずれ徹底しても山の幸をふんだんに使っており、白山の食材を思う存分堪能することができました。



ちなみに朝食はこんな感じ。塩鮭(かなり塩辛いタイプ)・温泉卵・がんもどきなど、いかにも和の朝食といった消化器系に優しいラインナップに、虚弱な私の胃腸は安堵の表情を浮かべておりました。


 
次にお風呂について見てゆきましょう。
7年ぶりの営業再開にあたって、上述のように一部客室をトイレ付きに改造したほか、浴室を徹底的に改築したんだそうです。実際に浴室の入口からして、旅館外観の鄙びたとは全く趣を異にするモダン和風と言うべき佇まいであり、リニューアルを通り越して全面改築したんじゃないかと勘違いしたくなるほどでした。
なお浴室入口手前の階段を上がると、未改装の大広間が無料の休憩室として開放されていました。



浴室手前には、湯上がりに清冽な石清水で喉を潤せる水飲み場も用意されています。白山が噴火した際に流れ出た溶岩が六角形に裂けた岩を六方石と称し、この六方石から湧き出る石清水はミネラルたっぷりの硬水なんだそうです。実際に飲んでみますと、たしかにエビアン的な硬水の重い味が舌や胃に残りましたが、それ以上に冷たい喉越しが何ともいえず爽快で、湯上がりの火照った状態で飲むと実にうまく、つい何杯も飲んでしまいました。


 
濃紺あるいは紅殻色の大きな暖簾を潜ると脱衣室です。山奥の秘湯らしくない、白木の質感を活かしたとても綺麗で清潔な室内には驚きを隠せませんでした。お風呂って、いくらお湯が良くても脱衣室は汚かったり暗かったりすると、それだけで施設としては評価が下がってしまいますが、これだけ綺麗で使い勝手が良いと、文句のつけようがありません。相当苦労して改装なさったものとお察しします。なおロッカーは暖簾の手前に設置されています。


 
洗面台は2台あってドライヤーも完備。綿棒や櫛・化粧水などのアメニティーも揃っています。また洗面台の向かいの台には腰巻きが積まれており、混浴の露天風呂を利用する際にはこの腰巻きで見苦しい部分を隠すことがこちらのルールとなっています。



室内にはこんなオブジェも。


 
内湯は男女別に分かれており、浴槽などに旧浴室の雰囲気を残しつつも大幅に手が加えられているようでした。画像には写っていませんが、天井の梁はむき出しで、随所に補強のための金具が用いられていました。壁面はモルタルですが、床や浴槽・水栓まわりは鉄平石が用いられており、浴槽は3~4人サイズでしょうか。湯使いとしては完全放流式ですが、お湯は洗い場側へはオーバーフローせず、浴槽奥の隅っこにある排水口へと流れてゆきます。

シャワー付き混合水栓は浴室左右に2つずつ計4基設置されていますが、設計に不都合があったのかお湯・水とも吐出圧力がかなり弱いので(この点は予めチェックイン時に説明ありました)、かけ湯するときは湯船から桶で直接汲んじゃった方が早いでしょう。



湯口から注がれる源泉投入量はちょっと絞り気味ですが、これは高温の源泉を加水することなく流量制御によって温度調整しようとするお宿側の配慮ではないかと思われます。お湯の見た目は無色透明で、湯口傍に置かれている柄杓で飲泉してみると、ほぼ無味無臭ながらも硬水的な味わいがあり、また砂消しゴム的な硫黄感も微かに帯びているようでした。さらさらサッパリ系の癖が無い優しい浴感です。なおこちらのお湯は前回取り上げた元湯の源泉から引湯したものを使っているのですが、湯口からお湯が出てくる段階でも、数キロの隔たりを感じさせない激熱の状態が維持されていました。


 
次に腰巻きで下半身を覆いながら露天風呂へと向かってみました。脱衣室にある扉を開けると浴室棟をグルっとひとまわりするような感じで露天への通路が伸びており、中庭の池越しに本館の各部屋から丸見えでした。どうして男なのに腰巻きで隠さなきゃいけないんだ、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もしかしたら男性客にとっての腰巻きは、露天における女性客対策もさることながら、客室のお客さんにとって見たくも無い男の裸体が目に入らないようにすることも、二次的な目的としてあるのかもしれませんね。入浴客の裸は、お風呂で目にするなばら何らの違和感を感じませんが、それ以外の環境ですと、いくら全裸入浴文化を有する日本人でも、ちょっと目を背けたくなるものです。


 
石の通路を歩いて行くと、森に囲まれた混浴露天風呂に到着です。湯船には半島状に突き出た岩があるために、これを仕切り代わりにして男女の入浴エリアを分けることも可能ですが、お風呂に入る前にはそんな仕切りはありませんから、やっぱり人目を気にする方は腰巻きが必須かもしれません。宿側に背を向けて入れば、白山の森以外は目に入ってきません。山奥の大自然に抱かれた開放感溢れる露天風呂です。


 
内湯同様に湯口のお湯は熱いのですが、露天風呂は外気で冷やされる上に加水も行われているので、体感で40℃かそれ以下の湯加減となっており、いつまでもじっくりと入っていられました。一応露天風呂にも照明が設置されているので、深夜になっても入浴は可能なのですが、おそらく意図的に照明の数を少なくしているため、目が慣れないうちは暗くて何も見えないかもしれません。しかしながら、真っ暗な中で長湯仕様のお風呂に浸かりつつ、見上げてごらん夜の星を。照明を最低限にしてくれているおかげで、満天の星空が楽しめましたよ。私が夜中に入浴しているときには流れ星をいくつも見ることができ、星空にすっかり心を奪われ、なんだかんだで2時間近くは入り続けてしまいました。

復活後の「山崎旅館」は、麓の白山一里野温泉にある「一里野高原ホテルろあん」の姉妹館として営業してゆくそうでして、客室に用意された浴衣やタオル、館内の各種備品も「ろあん」のものが転用されていました。爽快な露天風呂とおいしい山の幸を堪能でき、至極幸せな一晩を過ごすことができました。復活の灯火を是非絶やすこと無く、今後とも多くの秘湯ファンを魅了し続ける宿であってほしいと願っております。


温泉分析表見あたらず

石川県白山市尾添ム4-1
076-256-7950
(冬期連絡先:一里野高原ホテルろあん 076-256-7141)
ホームページ

日帰り入浴時間調査忘れ
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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岩間温泉元湯 露天風呂

2012年10月29日 | 石川県・福井県
前回記事「岩間噴泉塔群(その2 純白な石灰華と野湯)」の続編です。



噴泉塔から登山道を登って岩間温泉元湯の登山道口へと戻ってまいりました。下りの往路は40分弱を要したのに、なぜか登りの復路は30分で踏破してしまいました。私の脚力ってどうなっているんでしょうか、自分でもよくわかりません。


 
登山道口の前には、新岩間温泉「山崎旅館」や白山一里野温泉の各施設へ温泉を供給している源泉があるので、ちょっとそちらへ寄り道してみましょう。引湯管はブルーシートでガッチリと覆われており、坂の上の方へと伸びていました。


 
ここが源泉なんですね。堅牢なコンクリートの躯体からは濛々と白い湯気が立ち上っており、近づくだけでもムンムンとした熱気が感じられます。何軒もの宿や入浴施設が、この源泉から湧出する温泉をアテにしてお客さんを集めているんですね。ガッチリとした施設であって当然です。


 
さて源泉から登山道口へ戻り、さらに下って、避難小屋の手前にある元湯の露天風呂で登山の汗を流しましょう。この露天風呂は脱衣所はおろか、仕切りも何もなくただ混浴の湯舟が一つあるだけで、橋を渡る登山者からは丸見えですが、私の訪問時は、噴泉塔へ向かう際に1組、戻ってきてからも別の1組、それぞれカップルが入浴中でしたので、山奥の開放的な環境が羞恥心を吹き飛ばしてくれるのかもしれませんね。尤も足湯だけで済ませる方も多いようです。



かなり大きな露天風呂ですね。谷の方へ視界も開けており、眺望もまずまずです。
画像には写っていませんが、お風呂の脇にはデッキブラシが置かれており、定期的な清掃が実施されているそうでして、山の中の露天とは思えないほど綺麗な状態が保たれていました。また有難いことに桶なども用意されています。


 
先程の源泉から引かれてきたアッツアツの温泉が、岩組みの下から突き出た塩ビ管から注がれているのですが、山奥にある常時無人の露天風呂ですから、湯加減の調整なんて行われているわけもなく、大抵の場合は入浴前に湯加減の調整を行う必要があります。私の利用時には、ちょっと前まで他の客が入浴していたので、極端に熱い状態ではなかったのですが、それでも47℃はあってかなり熱い湯加減でしたので…


 
バルブ付きのホースから沢水を投入してジャンジャン加水したところ、あっという間に42度まで下がりました。これで心おきなく湯浴みできますね。



ということで入浴です。極楽この上ありません、最高です。お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、微かに砂消しゴム的な硫黄的味覚や臭覚を帯びていたように感じられました。浴感としてはアッサリ&サッパリとしたもので、癖の無い爽快なお湯でした。
山の紅葉に抱かれながら、気持ち良さのために時間を忘れてのんびり入浴していたら、いつの間にか1時間以上も入り続けてしまい、気づけば時計の針は夕方4時を過ぎていました。秋の日は釣瓶落としといいますから、早めにここを出発しないと真っ暗になっちゃいますから、本当はもう少し入っていたかったのですが、後ろ髪をひかれる思いでこの露天風呂を後にしました。


 
前々回の記事でも取り上げましたが、元湯の避難小屋&トイレはかなり立派な造りです。その小屋の基礎部分に立てかけてある自転車を取り戻して、出発地点へと戻ることにしましょう。



自転車で砂利の林道を疾走。下り一辺倒なので楽チンです。


 
途中で山の紅葉を眺めながら…



出発地点であるゲート(駐車場)に到着です。さすが自転車は早い。徒歩なら40分から1時間弱は要するところを、わずか15分で走破してしまいました。

さて日暮れ前に無事戻れましたので、明るいうちにもう一軒露天風呂へ行きましょう。
次回はこのゲート(駐車場)目の前にある新岩間温泉「山崎旅館」で宿泊したときのレポートです。


温泉分析表なし

石川県白山市尾添  地図

利用に関する時間制限は特にありませんが、なにも無い山奥ですから日中の利用が良いでしょう。
無料

私の好み:★★★


(余談)
実はこの露天風呂に入る前、ちょっとした事件に遭遇してしたため、帰る時間が遅くなってしまいました。その事件とは登山者の転落事故です。私が噴泉塔から元湯へと戻ってきたとき、下の方から血相を変えて高齢の登山者の一団が上がってくるではありませんか。一団は私を見るや否や「遭難者がいるから助けてほしい」と声をかけてきました。さっき私が通り過ぎてきた登山道で高齢の登山者が転落してしまったんだそうです。私も急遽来た道を引き返して捜索に加わったところ、登山道口から数百メートル進んだ、道が小さな沢を越す地点で、沢の下方20メートル付近に横たわるお爺さんを発見。偶然にも元湯付近で工事関係者がいたため、その関係者にまず連絡し、更には新岩間温泉の山崎旅館のスタッフが現場へ駆けつけ、石川県の消防にレスキューを要請。たまたまこの日は晴天で無風状態だったためか、要請から30分程度で救助隊のヘリがやってきて、レスキュー隊の手によってそのお爺さんは無事にヘリコプターへ収容され、病院へと搬送されて行きました。画像はヘリにお爺さんが収容されている様子、そしてその事故を報じる翌日の「北國新聞」の記事です。この事故で76歳のお爺さんは両脚を骨折してしまったものの、命には別条がなく、最悪の事態は回避することができたのですが、その要因としては、たまたま紅葉の季節だったので他に登山者がいて発見がしやすかったこと、付近で工事していたため連絡が取りやすかったこと、快晴で無風状態だったためにヘリが山肌ギリギリまで接近しながらホバリングできたこと、そして何よりも重要なのが、尖った石がゴロゴロしている沢へ20メートルも転落したにもかかわらずヘルメットを被っていたので頭へのダメージが大幅に軽減できたことが挙げられます。大したことの無い登山道における転落事故ですが、ヘルメットの有無がお爺さんの運命を大きく左右したわけです。ヘルメットってとっても大切なんですね。
今回の露天風呂は、お爺さんの無事を確認した後での入浴だったため、「無事に意識のある状態でレスキューに助けてもらった」という安心安堵の心情が、余計に湯あみの爽快さを高めてくれたのでした。
 

コメント
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