琵琶湖の畔に個性的な温泉があると聞き、実際に行ってみることにしました。まずは北陸本線の河毛駅で電車を降ります。お城のようなファサードをした駅舎を出ると、周囲に広がる景色は水田ばかり。実に長閑で麗しい田園風景です。
駅の観光協会で自転車を借り、目的地へ向かうことにしました。目的地までは長浜市のコミュニティーバスが運行されているのですが、本数が少ない上、登録者でないと利用できません。歩いて行けない距離ではないのですが、この日はタイトなタイムスケジュールだったため、便利な自転車を活用することにしたのです。
国道を走っていると、途中で小谷城なる史跡に出くわしました。私は学生時代に歴史を専攻していたにもかかわらず、日本の中世以前に関しては非常に疎いため、この小谷城についても「浅井長政のお城かな」程度の認識しか持っていなかったのですが、後日よく調べてみたら、かつて織田信長の武将だった羽柴秀吉によってこの城は陥落し、攻められた城主の浅井長政が自害に至ったという悲劇の舞台だったことがわかり、それならばちゃんと時間を確保して見学しておけばよかったと、いまになって頻りに後悔しております。
余談ですが、さきほど私が電車を降りた河毛駅の外観は、このお城をイメージしているのかもしれませんね。
そんな歴史の舞台だった小谷城跡を通過して国道を南下すると、路傍の田んぼに温泉を示す看板が立っていました。その角で左折し、路地を入ってゆくと・・・
駅から約20分のサイクリングで、今回の目的地である「須賀谷温泉」に到着です。
旅館ですから宿泊が本業ですが、日帰り入浴も積極的に受け入れているようです。とはいえ、私が訪れた日は宿泊客が多かったため、日帰り入浴の営業は15時までに変更されていました(通常は11:00~21:00)。日帰りでの利用をご検討の際は、念のため事前に確認したほうがよさそうです。
広々としたフロント左手に設置されている券売機で湯銭を納め、浴場へと進みます。途中右手に食堂があり、日帰り客でもうどんなどをいただくことができます(もちろん有料)。
こちらのお風呂は、ご近所の小谷城にちなんで「浅井の湯」と名付けられており、更に女湯は「お市の湯」、男湯は「長政の湯」として分かれています。まさか入浴中に秀吉が攻めてきて狼藉に遭うようなことはないかと思いますので、今回は警戒心を解き、ゆっくりと湯浴みさせていただきましょう。
なお浴場内は撮影厳禁ですので、以下文章のみでレポートさせていただきます。あしからずご了承ください。お風呂の様子をご覧になりたい場合は、公式サイトでご確認ください。
脱衣室は清掃が行き届いており、飲料水のサービスも用意されていて使い勝手良好。そんな脱衣室から浴室へ。
男湯「長政の湯」の場合、入って右側に洗い場、左側に後述する浴槽が2つ配置され、洗い場にはシャワー付きカランが6基(うち1基は立って使うシャワー)並んでいます。
2つある浴槽のうち、大きな主浴槽は目測で1.8m×3m。露天風呂に面した窓側の浴槽縁には丸太が用いられている他はタイル張り。湯口には浅井長政とその妻であるお市がこのお湯に入ったと書かれており、そこから47℃近くに熱せられたお湯が浴槽へチョロチョロと注がれていました。またこの湯口のほか、その両脇の槽内からは適温のお湯が投入されており、浴槽の縁より静々と溢れ出ていました。湯船の湯加減は42~3℃。お湯は鉄分の影響でオレンジ色に濃く濁っています。とはいえ、お湯に触れても肌に着色するようなことはありません。
もうひとつの浴槽は、主浴槽よりひとまわり小さい副浴槽。「秘湯」と書かれた札が立つその浴槽は4人サイズで、主浴槽よりぬるめの湯加減に設定されており、湯口からおそらく非加温の源泉と思しき鉱泉がチョロチョロ滴り落ちているほか、浴槽内でも適温のお湯が吐出されていました。そして浴槽縁の切り欠けから溢れ出ているほか、浴槽内での吸い込みも確認できました。生の源泉を投入しつつ、循環加温も併用しているのでしょうか。
不思議なのはお湯の濁り方。上述のように主浴槽ではオレンジ色に濃く濁っていましたが、こちらでは無色透明で、湯中に赤茶色の浮遊物がチラホラ舞っています。源泉は20℃未満ですから、浴用にするには加温しなければならず、主浴槽も副浴槽も当然ながら加温されているわけですが、加温の程度によってここまで懸濁の度合いに違いが出るということなのかもしれません。
続いて、引き戸を開けて露天風呂へ。日本庭園のような趣きの中に設けられた7~8人サイズの岩風呂は、その全体がすっぽり屋根に覆われているので、頭上の開放感は望めませんが、外には青々とした竹林が広がり、静かで清々しい環境でのんびり湯浴みすることができます。お湯は内湯の副浴槽と同じような無色透明で、石積みの湯口の中では熱い加温湯と冷たい鉱泉が一緒に注がれていました。また浴槽内でも適温のお湯が吐出されていました。この浴槽でも生源泉と加温循環湯が並行して供給されているのでしょうね。
それにしても、濃く濁っている主浴槽に対し、副浴槽や露天風呂に張られているお湯はやけに透明度が高いので、一見すると同じ源泉とは思えません。しかも何かの物質が特に多く含まれているわけではなく、むしろあらゆる成分が控えめな規定泉なのですから、なおさら不思議です。もしかしたら非業の死を遂げた浅井長政の怨念がお湯を濁らせていたりして・・・。ま、そんなことは無いわけですが、これも天然の鉱泉を使っているからこその現象と言えるでしょう。
総鉄イオンが温泉法の定める規定を上回っているため、いわゆる規定泉として温泉(鉱泉)を名乗れるわけですが、実際にお湯を口にしてみても、さほど金気味はせず、むしろ土気のような感覚が伝わってきました。その一方で、内湯の室内には赤さびのような匂いが漂っているので、やはり鉄分が多いのでしょう。
湯使いに関し、公式サイトでは「県下初の「かけ流し式」を採用」と案内されていますが、実際に私が体感したところでは、そのままの源泉を投入しつつ、循環加温も並行して行っている掛け流し循環併用式と称すべき状態だったように思います。温泉資源が豊富な地域の方にしてみれば、こうした湯使いにもかかわらず「掛け流し」を名乗ることに対して納得いかないかもしれませんが、温泉資源に乏しい滋賀県ではこれでも十分に立派ではないでしょうか。
そこそこ高めの値段設定にもかかわらず、日中から日帰り入浴のお客さんが数人いらっしゃり、ゆっくりとした時間を過ごしていました。戦国時代の歴史に思いをはせながら、湯浴みしてみるのも良いかもしれませんね。
規定泉(総鉄イオンが該当)
17.2℃ pH不明 溶存物質0.19g/kg 成分総計0.24g/kg
Na+:5.10mg, Mg++:8.60mg(25.36mval%), Ca++:26.10mg(46.43mval%), Fe++:6.70mg, Fe+++:4.50mg,
Cl-:6.40mg, SO4--:6.00mg, HCO3-:103.90mg(80.57mval%),
H2SiO3:15.8mg, CO2:45.8mg,
滋賀県長浜市須賀谷町36 地図
0749-74-2235
ホームページ
日帰り入浴11:00~21:00(時間については念のため現地へご確認ください)
1000円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★