温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

土湯温泉 御とめ湯り

2019年08月13日 | 福島県

3.11により大きなダメージを受けた福島の奥座敷、土湯温泉。あれからいくつもの旅館が志を奪われて意気消沈し、温泉街全体が沈みかけようとしていましたが、元のように立ち直って土湯の灯を消さないようにと願う、地元の方々を中心にした不撓不屈の精神により、いろんな形で新しい試みが行われています。



土湯温泉では震災により閉鎖に至ってしまった旅館を新しい営業形態で再開させようという動きがあり、実際に複数の施設で数年前から新たなスタートを切っています。今年(2019年)の春に私が訪れた「御とめ湯り」もそのひとつ。土湯温泉街の入口にあたる高台に位置しており、以前はホテル観山荘の別館「樹泉」でしたが震災後に残念ながら廃業。しかし、モダン和風な雰囲気に改装して2017年に日帰り施設として復活し、今年(2019年)1月には宿泊営業も開始しました。



玄関を入った先は土足厳禁。下足は玄関に用意されている黒い布の袋に入れて持ち歩きます。
日帰り入浴の場合は受付でロッカーキーを受け取り、料金は退館ときに支払います(つまり後払い)。
ちなみに今回私は宿泊利用でした。大手宿泊予約サイトから予約しました。以前は上述のように以前こちらは旅館でしたが、現在は日帰り入浴施設として営業しており、宿泊営業はあくまでその副営業形態という位置付けで、旅館というより簡易的な宿泊施設といった感じです。具体的に、宿泊利用の場合は以下のような流れとなります・・・



まず受付でチェックイン。宿泊中に使うタオルのセットと一緒に渡されるのが↑のプリントです。ここに宿泊利用に関する注意の全てが記載されています。
宿泊棟は旧従業員寮。エレベータはありません。一旦受付から外に出て、建物の端っこに階段で上がります。各部屋のドアは暗証番号式のオートロックとなっており、チェックインの際に、受付で渡される説明のプリントへその番号が記入されます。番号式のロックなので、鍵は手渡されません。



今回私が利用したのはシングルルーム。いかにも昭和の従業員寮にありそうな間取り1Kのお部屋です。でも寝室は綺麗かつシンプルに改装されており、現代風の体裁を保っています。テレビは無いものの、wifiは飛んでいますしエアコンも設置されていますから、居住性に問題はありません。床はフローリング風のリノリウムです。お部屋にトイレはありますが、シャワールームやバスルームはありませんので、お風呂は後述する大浴場を利用することになります。浴衣など館内で着る衣類のほか、タオル類や歯ブラシなどのアメニティ関係の用意もありません。必要なものは持参するか、あるいは購入するか(タイルは有料レンタル可能)のいずれかです。



一方、キッチンまわりはかつての寮時代のままでしょうか。でも冷蔵庫や電子レンジが自由に使えるので、街のコンビニでお弁当を買ってきて、ここで食べれば食事代を安く上げられますね。
なおチェックアウト受付を経ず、いきなり退出して構いません。というか、10時にならないと受付が開かないので、チェックアウトの手続きをせず勝手に出るシステムになっているのです。鍵を暗証番号式にしているのも、そうしたシステムゆえなのかもしれません。一般的なホテルにあるサービスや備え付けなどを極力削ることにより、限られた労働力でお部屋のセットアップを可能にし、かつ廉価な宿泊料金を実現させているのでしょう。



さて、お風呂に入るため受付前のロビーへ戻ってまいりました。こちらでは軽食をいただくこともできます。



館内の食事は19時頃まで。購入できるハンバーガーやパンなどは部屋へ持ち込むことができます。実際に私もライスバーガーとデニッシュを買ってみました。というか、買わざるを得なかったのです。私は当地へ18時過ぎに到着したのですが、既に温泉街の飲食店は暖簾を片付けており、付近にコンビニも無く、かといってその時間から市街地へ移動すると大幅なタイムロスになるため、館内で提供される軽食を夕ご飯にするしかなかったのです。でもライスバーガーは美味しく、またパンはお風呂上がりに合わせてスタッフの方が焼いておいてくれたので、結果的にはこれで良かったのかもしれません。パンの件しかり、総じてスタッフの対応が親切でした。



お風呂は廊下を進んだ先です。なお廊下の上の方は貸切の休憩室があるようですが、今回は使っておりません。



廊下の先の階段を下ると休憩用の大広間です。こちらは日帰り入浴施設としての営業がメインであり、この時も大広間には風呂上がりで寛ぐお客さんがたくさんいらっしゃいました。



元々旅館のお風呂だったためか、脱衣室は広くて天井も高く開放的です。リニューアルによりシックな色調の壁紙に張り替えられたようです。なおロッカーは受付で指定されます(鍵を渡されます)。洗面台の数が多く、ドライヤーも複数台用意されていました。



お風呂も広くて天井高く、のびのびとした環境で湯浴みが楽しめます。インターネット上の情報によれば、この大浴場はリニューアル前の旅館時代と基本的に変わっていないようです。男湯の場合、入って右手に洗い場が配置され、シャワー付き混合水栓が計8基並んでいます。
大きな窓の下に主浴槽が設けられています。目測で6m×2.5mといったサイズ。縁には木材が用いられ、浴槽の内部はタイル貼りです。湯口からお湯が滔々と注がれ、露天風呂出入口近くの切り掛けよりオーバーフローしています。万人受けするちょうど良い湯加減でした。



浴室内にはサウナ跡がありますが現在は使われていません。またその前にはジャグジーか水風呂の跡も残っているのですが、現在はそこを埋めて畳を敷き、休憩スペースにしていました。



露天風呂は日本庭園風のしつらえ。目の前に2本の巨木が立ち、その巨木越しに温泉街を見下ろす、見晴らしの良いロケーションです。露天風呂は屋根掛けされており、四角形で4〜5人サイズでしょうか。



木枡の湯口からお湯が投入され、浴槽を満たしたお湯は縁下の穴から外へ流れ出ていました。私の利用時は内湯より若干ぬるめの湯加減でしたが、それゆえ長めにじっくりと浸かることができました。

さて、お湯に関するインプレッションですが、こちらに引かれている源泉は土湯温泉の混合泉です。湯船でわずかに白く霞み、湯中では茶色い羽のような湯の花がたくさん舞っています。湯面ではパルプのような匂いが漂い、木材のような香りや、重曹のほろ苦さ、そして僅かに砂消しゴムのような風味が感じられます。トロトロなお湯の中に浸かるとツルツルスベスベの浴感が得られるのですが、でも浴槽の大きさに対しお湯の湯量が少ないようであり、お湯の鮮度感がいまいちだったように記憶しています。館内表示によれば掛け流しの湯使いであり、源泉の質を損なわないよう最低限の加水で温度調整しているようですが、となれば、加水と投入量の増減によって温度調整をしているのでしょうから、中継槽から65℃でやってくる熱い源泉の投入量を絞るのも仕方がないのかもしれません。なお以前の旅館時代は消毒した上でかけ流していていたようですが、現在のお湯からは特に消毒臭は感じられませんでした。

旅館のお風呂となれば、深夜まで、あわよくば夜通し入れるものですが、上述のようにこちらは日帰り入浴営業がメインであり、宿泊はそのオマケみたいなものですから、ビジネスアワーも日帰り入浴営業に即しています。というのも、なんとお風呂に入れるは20時頃まで。しかも翌朝は入れないのです。もっとも、営業開始時間である午前10時以降でしたら、宿泊者用の特別料金500円を支払えば入浴できるそうですが、それにしてもお風呂の利用時間に関しては不便と言わざるを得ません。特に朝風呂は入れないことは残念でした。

リニューアルオープンに際して、できるだけ人件費をかけず、余計なサービスなどを削ってコストを下げる形で、宿泊営業の再開にこぎ着けたのでしょう。その姿勢や発想は大いに理解できます。たしかに安く旅した方には大変重宝するかと思いますが、温泉に泊まりながら夜8時以降、翌朝もお風呂に入れないのは玉に瑕。お客さんからの賛否もあることでしょう。宿泊営業はまだ開始して間もないので、今後試行錯誤を重ねてブラッシュアップされてゆくことを期待しています。そして土湯温泉の再生を担う希望の星になっていただきたいものです。

偉そうに屁理屈をこねてしまった私ですが、実は朝風呂に入れないことを想定しておりましたので、そんなこともあろうかと、私は翌朝温泉街の中心部へと向かったのでした(次回記事に続く)。


2号泉・16号泉・17号泉・18号泉の混合泉
アルカリ性単純温泉 65℃ pH8.55 溶存物質0.5756g/kg 成分総計0.5756g/kg
Na+:112.8mg, Cl-:75.0mg, S2O3--:0.3mg, HS-:1.3mg, OH-:0.1mg, SO4--:126.1mg, HCO3-:33.0mg, CO3--:16.8mg,
H2SiO3:158.6mg,
(平成29年7月28日)
加水あり(源泉温度が高い為)

福島県福島市土湯温泉町字見附32-1
024-563-7373
ホームページ

10:00〜21:00(受付2030まで) 不定休
850円(宿泊は素泊まり専門・シングル3500円)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント
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