甲府盆地は良質な温泉の宝庫。特に重曹泉やぬる湯など、私が大好きなタイプの温泉が多い為、ちょっと時間に余裕がある週末は、ちょくちょく山梨県へ出かけてお湯巡りを楽しんでおります。
せっかく遠くへ出かけるのですから、できれば利用しやすい施設を訪ねたいのが心情ってものですが、数を重ねてゆくうちにそのようなハードルの低い施設は大抵行きつくしてしまい、つい尻込みしちゃいそうな施設ばかりが残っていく傾向にあります。夕ご飯で自分の好みばかりを先に食べていたら、苦手な物がお皿の上に残ってしまうのと同じですね。でも食わず嫌いという言葉もあるように、行ったことも無いくせに躊躇していては、本当の良し悪しがわかりません。そこで先日はずっと行きそびれていた国道20号沿いの温泉施設「竜王ラドン温泉」へ向かうことにしました。沿道には上画像のような大きな看板が立っているので、ここを通るたびに「どんな温泉なんだろう」と気になっていたのですが・・・
このようなキッチュな色合いの大きな看板も目立っており、そのエキセントリックな雰囲気に物怖じして、いままで訪問を躊躇っていたのでした。
くすんだ色合い建物も結構年季が入っており、昭和の匂いが全体から香ってきます。かつて浴場は「湯~とぴあ」と称していたようですが、いまでは浴場とビジネスホテルを同一施設として運営しているようです。
キッチュな看板といい、古びた建物の雰囲気といい、いわゆる女子受けやインスタ映えといった概念とは逆ベクトルの渋さが特徴的であり、その渋さゆえ、若い子のアンテナには引っかかりにくく、少なくとも「ゆーとぴあ」と聞いてゴムパッチン芸が連想できる年代以上でないと心理的な抵抗感は拭えないかもしれません。いや、子供の頃にゴムパッチンを真似してふざけていた私ですら、ちょっと及び腰になってしまいました。
館内に入っても昭和から時が止まっているかのような雰囲気にかわりありません。下足場には夥しい数のスリッパが整然と並べられていました。ただ、なぜか玄関に設置されている入浴券の券売機だけは妙に新しく、ここだけはちゃんと2019年の時間軸を進んでいる感じがします。その券売機で料金を支払い、やけにゴチャゴチャしているフロントへ入浴券を差し出します。
フロントの隣には古いCDやカセット類がたくさん陳列されているコーナーがあるのですが、果たして今どきその手の物を購入するお客さんはどれだけいるのやら・・・。
この温泉施設の最大の「売り」と言うべき設備が、フロントの向かいに鎮座している大きな「ラドン発生器」なるもの。ここでラドンガスと称するものを発生させて、お風呂へそのガスを送っているんだとか。ここまで読んで、そのガスにツッコミたい方がたくさんいらっしゃるのは百も承知ですが、ここはちょっと我慢していただき、話を先へ進めます。
案内プレートには大浴場ではなく「大浴池」と書かれていますが、これは中国語表記。この他にも館内にはなぜか中国語表記が目立っていました。
薄暗い通路を通ってお風呂へ。
脱衣室も長年にわたって改装されていないと思しきくすんだ色合いの古びた佇まい。私の訪問時は、昔から通っていると思しきお爺さんが数人いらっしゃり、首まわりがヨレヨレになったランニングシャツ姿で、床屋ならぬ風呂屋談義に華を咲かせていました。
浴室に入ると温泉由来の金気臭が鼻孔を突いてきます。
室内は茶色のタイル貼り。後述する湯滝の轟音が湯気の中で響いていました。
男湯の場合、浴室に入って左側にある、別室のような空間に洗い場があり、シャワー付きカランが6~8ヶ所(正しい数は失念)コの字形に取り付けられています。水栓金具がちょっと金気色に染まっていましたから、カランから出てくるお湯は温泉かもしれませんね。なおこの洗い場がある空間には、水風呂のほか、なぜかアカスリ台が置かれています。
内湯の主浴槽は縦に長い四角形で、私の目測では幅2m弱、奥行9m前後かと思われます。大きな浴槽なのですが、その半分以上は両サイドが壁であるため、実際よりも若干狭く見えてしまいます。
この主浴槽では源泉のお湯が滝のように上からドバドバと大量投入されており、窓側の溝へ惜しげもなくオーバーフローしています。当記事ではここまでの間に、施設について色々と申し上げてきましたが、少なくとも湯使いは素晴らしく、贅沢に投入されている温泉は新鮮そのものです。言わずもがな、私は温泉マニア。施設はともかく、お湯のクオリティが良ければそれだけで十分満足できるんです。湯加減は40℃前後で一般的なお風呂よりも若干ぬるめ。じっくりノンビリ長湯できます。なお、この新鮮なお湯を汲んで持ち帰る場合は、一升500円とのことです。
洗い場と主浴槽の間には「ラドン吸入室」と掲示された怪しい部屋がありました。フロント前に置かれていた、あの大きな装置から送られてくるラドンと称する摩訶不思議なガスが、このドアの向こうで充満しているわけですね。
ステップを上がってドアを開けたら、密閉された蒸し風呂のような空間に、内湯主浴槽と同じような形状およびサイズの細長い浴槽が設けられており、そこに内湯と同じ源泉が注がれていました。てっきり怪しい匂いが充満しているのかと思いきや、単に温泉の湯気が満ちているだけでしたが、閉鎖的空間ゆえにちょっとしたミストサウナ状態であり、若干の息苦しさを覚えました。いや、その苦しさはラドン由来なのかも(まさか・・・)。
壁には怪しい説明書きがたくさん掲示されており、ラドンがいかに健康に良いか、その効能が力説されているのですが、その説明によればフロント前の巨大なラドン発生装置はラドンガスとオゾンガスを発生させているとのこと。ラドンはともかく、本当にオゾンガスを発生させてこの浴室に開放させているのならば、それを吸った私は気管支炎になっちゃうかも。オゾンなんて放出しちゃダメなのでは・・・。そもそも医療的効果を謳うのは薬事法に抵触しちゃうのではないかと、湯に浸かりながら余計なことを考えてしまいました。
縦長の浴槽の底からブクブクと気泡が上がってくるのですが、おそらくこの気泡が巨大な装置から送られてきたガスなのでしょう。その影響なのか湯中では若干の泡が肌に付着します。密閉された狭い浴室であるためお湯は冷めることなく、主浴槽よりも若干高めの湯加減であるため、多くのお客さんはこの浴槽に集まってくるようでした。私もこの浴槽に入ってみましたが、湯加減は一般的であるにもかかわらず確かに温まりが強く、あれれ、これってラドン効果なのかと思ってしまいましたが、よく考えれば室内は上述のようにミストサウナ状態で全身蒸されながらの入浴であるため、ラドンの影響とは無関係に体が温まり発汗するわけです。なお湯口には「ラドン温泉なのでたくさん召し上がってください」と書かれており、試しに私も飲んでみましたが、特に身体にこれといった影響は無かったように思います。
私はこの「ラドン吸入室」で初めて知ったのですが、世の中にはラドン開発事業団なる団体があり(もしくはあった)、その元会長として元総理大臣の鈴木善幸氏の名前が浴室内のプレートに記載されていました。いわゆる名誉職(お飾り)だったのでしょうけど、氏の現役時代を知る方々にとっては大きなネームバリューを発揮したことでしょう。
健康を取り戻すため10分間がまん? 試しに私も我慢してみましたが、ただ少々逆上せかかっただけでした。自覚しなかったものの、何か効果はあったのかしら・・・。
それはともかく、こちらのお湯は淡い褐色(黄土色系の茶色)の透明で、湯の花は確認できず、特に浮遊物もありません。お湯を口に含むと金気味と薄い塩味、重曹的なほろ苦み、そして僅かですが卵黄のような味が感じられます。湯中ではツルスベ浴感がしっかり得られ、滑らかな感触がとっても気持ちよく、特に主浴槽はぬるめの湯加減であるため、ツルスベのお湯をゆっくりと堪能することができました。
施設に関しては人によって受け止め方が様々かと思いますが、お湯の質はまずまずなので、甲府~韮崎間の国道20号を走行中にひとっ風呂浴びたくなった時には便利な施設です。また廉価で宿泊できるようですから、旅人にも重宝するかと思います。
中央ベニヤ竜王温泉(竜王ラドン温泉)
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 pH7.8 39.5℃ 130L/min(掘削自噴) 溶存物質1346.2mg/kg 成分総計1445.3mg/kg
Na+:418.4mg(89.52mval%), Ca++:24.6mg(6.05mval%), Mg++:7.2mg,
Cl-:428.9mg(65.65mval%), Br-:1.4mg, HS-:0.1mg, HCO3-:313.4mg(27.89mval%), CO3--:31.2mg,
H2SiO3:97.2mg, CO2:99.1mg,
(平成21年11月9日)
中央本線・竜王駅から徒歩10分強
山梨県甲斐市富竹新田1300-1
055-276-9111
ホームページ
日帰り入浴10:00~23:00
700円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★