温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

伊東温泉 山喜旅館

2015年10月31日 | 静岡県
 
県道12号線の角から海浜の方へ向かった路地沿いにある、老舗旅館「山喜旅館」で日帰り入浴してまいりました。なまこ壁と破風の玄関という外観が和の情緒たっぷり。昔ながらの木戸に手をかけた瞬間は昭和へタイムスリップしたかのような錯覚に陥りました。


 
こちらのお宿は昭和15年創業とのこと。いかにも老舗らしい板張りの廊下はピカピカに磨かれており、建物の重厚感も相まって歴史の風格を感じさせます。日帰り入浴をお願いしたところ、快く受け入れてくださいました。訪問したのは梅の花が咲く早春の頃(半年以上前のネタで恐縮です)。帳場の斜前には立派なお雛様が飾られていました。


 
モダン和風に改装されたラウンジを右手に見ながら、廊下を進んで奥にある浴室へと向かいます。奥の方は改装されておらず、昔ながらのタイルの洗面台がいい味を醸し出していました。


 
棚に籐の籠が並ぶ脱衣室は多少年季が感じられるものの、洗面台まわりをはじめ隅々まで綺麗に維持されており、使い勝手には問題ありません。


 
中庭に面して窓が連なる浴室には外光がたっぷり降り注いでおり、その明るさゆえ実際の室内面積以上に広く感じられます。浴室内は、浴槽部分の四角い空間と、洗い場部分の扇型の空間をくっつけたような構造になっており、洗い場ではシャワー付きカランが円弧を描きながら4基並んでいて、腰掛けや桶など備え付けのものはきちんとセッティングされていました。整理整頓が行き届いているところに老舗旅館の心意気が伝わってきます。


 
浴槽は奥の窓下でやや曲線を描いていたり、右手に柱の出っ張りがあったりと、形容の難しい形状をしていますが、ザックリ言えば台形のようなスタイルであり、最も長い辺で奥行きは3.5m、幅は2.5mほど。キャパは7~8人といったところです。2方向が窓に面しているため、私が利用した日中はとても明るく、槽内に貼られた水色のタイルがお湯の清らかさを際立たせていました。そして石材が用いられた縁からは絶え間なくお湯が溢れ出ていました。


 
お湯は壁の上から斜面を這って流下しながら投入されています。上述のようにお湯は縁からオーバーフローしているほか、槽内にあく2つの穴からも吸引されており、館内表示によれば循環および濾過を実施しているとのこと。ということは、循環と掛け流しを併用しているのでしょう。

こちらのお湯は自家源泉で、見た目は無色透明。濾過されているためか湯の花などの存在は確認できません。とろみの中にツルスベの浴感があり、少々の引っ掛かりも混在してます。口に含んでみると塩辛さと苦汁の味がはっきりと感じられます。伊東のお湯は一般的に無色透明の単純温泉である場合が多いのですが、こちらの自家源泉は目の前に相模灘が広がっている立地ゆえ、海水の影響を多分に受けているのでしょう。伊東というより熱海(特に伊豆山エリア)のお湯に近いタイプです。前々回記事の「梅屋旅館」でも伊東のしょっぱい塩温泉を紹介しましたが、梅屋さんの塩温泉よりは塩分が若干マイルドかもしれません。いずれにせよ伊東温泉では、当地の主流である無色透明無味無臭の単純温泉に紛れて、こうした塩辛いお湯がところどころで湧いているのですね。

海の影響を思わせるもう一つのものが温度の低さです。伊東温泉の各源泉はえてして高温ですが、こちらの源泉は40.0℃と辛うじて入浴できる程度の温度しかなく、それゆえ冬季には加温されるのですが、お湯のクオリティを大切にするためか、加温の程度は必要最低限に抑えられています。入浴の受付時、帳場の方は「ぬるいお湯ですから、どうぞ時間をお気になさらず、ごゆっくりお入りください」と言ってくださり、実際に入ってみたところ体感で40℃あるかないかといった湯加減だったのですが、おかげで湯あたりを気にせずじっくり長湯することができました。実はこの低めの湯加減こそ湯使いの妙であり、日本人が好む42~3℃まで上げてしまうと、塩辛いお湯ですから湯あたりを起こしやすく、長湯もできないのです。こちらと同じく塩辛い熱海の伊豆山の湯は、その塩分の濃さと熱さが相まって、決して長湯できず、湯上りには発汗が止まらず、下手をすれば湯あたりを起こして意識が朦朧としかねません。しかしこちらの場合はぬるいからこそ、塩辛いお湯でもその凶暴さは鳴りを潜め、じっくり長湯することで体の芯までしっかりと温まり、温浴効果も持続するのであります。しかも濃い食塩泉にありがちな変な発汗は少なく、むしろ不思議なことに爽快感を覚えたほどです。これもぬる湯の妙。実に考え抜かれている湯加減なのでした。


 
浴室の窓を開けると、トタンの蓋が被せられたコンクリの構造物を発見。これって自家源泉の井戸なのでしょうか。

戦前に開業した老舗旅館ですが、今では時代のニーズに合わせるべく、個人旅行はもちろん、ビジネスや研修・合宿など多目的に応えられる宿として、古風な外観を保ちつつも現代的な設備を導入し、利用しやすい料金設定に抑えて、間口を広くしていろんなお客さんを受け入れています。利用しやすいお宿であることはもちろん、伊東では珍しいしょっぱいお湯も注目したいお宿です。


松原温泉松原14号
ナトリウム-塩化物温泉 40.0℃ pH7.4 55.9L/min(動力揚湯) 溶存物質11.71g/kg 成分総計11.72g/kg
Na+:2906mg(62.69mval%), Mg++:446.0mg(18.20mval%), Ca++:723.6mg(17.91mval%),
Cl-:6414mg(89.29mval%), Br-:2.1mg, SO4--:973.0mg(10.00mval%),
H2SiO3;65.7mg,
加水・加温あり(温度調整のため)
循環・濾過あり(浴槽を衛生的に維持し温度を一定に保つため)
塩素系薬剤使用(静岡県条例等の基準を満たすため)
(平成20年3月18日分析)

伊東駅より徒歩10分弱(約800m)
静岡県伊東市東松原町4-7  地図
0557-37-4123
ホームページ

日帰り入浴時間要確認
600円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は帳場預かり

私の好み:★★

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コメント (2)
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