

引き続き伊東の温泉を巡ります。次なる目的地は、前回記事で取り上げた「梅屋旅館」からさらに南へ進んで末広町へ入ってすぐのところにある共同浴場「小川布袋の湯」です。路地に沿って建つ安アパートのような2階建ての細長い建物は、一見すると浴場らしくありませんが、れっきとした天然温泉の共同浴場であります。


入口は男女別に分かれており、それらに挟まれる形で布袋様が祀られていました。ふっくらしたお腹をさすると福にあやかれるんだそうですよ。この浴場のオープン時間は16時なのですが、番台を担当する人によって時間が繰り上がるらしく、私が訪れた日の場合は、15時で既に「営業中」の札がさがっていました。番台のおじさん曰く、当番によって違うけど、いつも15:30には開いているよ、とのことです。

細長い建物には、男女別浴場の他、貸切風呂も設けられており、番台で申込めば利用が可能です。上画像がその貸切風呂の入口で、男女別入口の右側へちょっと離れた場所にあります。


玄関の引き戸を開けると、男女双方に挟まれた位置に番台があり、そこで直接湯銭を納めます。昔ながらの銭湯スタイルですね。
脱衣室に貼ってある「小川湯はぬるいけんども温まる。ぬる湯だけんど長湯は無用」という言葉は、このお風呂に入る際に、最も心しておかなければなりません。もちろん意味は読んだ通りであり、この手のセリフはどの温泉でも見られますので、はじめ目にした時には軽く受け流していたのですが、私のようにこの言葉を侮っていると後で面食らうかもしれません。詳しくは後述にて。


古い木製の棚といい、バネで目盛りを指す体重計といい、脱衣室には古き良き昭和の温泉風情が残されていました。なお棚の一部は施錠可能です。この室内でも布袋様が微笑んでいらっしゃいました。普通の人間でこれだけ下腹が出ていたら、間違いなく医者から脂肪肝などの診断を受けて厳しい摂生を指示されますが、己の不健康を顧みずお腹をぷっくりさせたまま、にっこり笑って他人様に福を授けているのですから、その尊い自己犠牲の精神には恐れ入ります。


伊東の共同浴場は浴室の中央に四角い浴槽が据えられていることが多いのですが、こちらのお風呂の場合は窓下にセットされており、しかも台形を斜めに歪めたような形状をしていて、他浴場とは一線を画す独特のスタイルです。この浴槽の左右に洗い場が二手に分かれており、計6つのカランが設けられていました(うちシャワー付きが5ヶ所)。共同浴場なのにボディーソープが備え付けられている点は特筆すべきでしょう。


むき出しの配管から各カラン及びシャワーへと接続されており、浴槽へお湯を供給する配管とカランへ供給する配管は同一でしたから、カランのお湯は温泉で間違いありません。
このお風呂でちょっとユニークなのが、備え付けの腰掛け。腰掛け自体は市販の一般的なものなのですが、その上にお尻サイズに切り取ったバスマットを載せており、クッション性や防滑性を高めていました。


浴槽は上述したように台形を歪めたような形状をしており、小学校の算数で習った台形の面積を求める際の呼び名で表現すれば、目測で上底1.2m・下底1.6m・高さ3m、大体4~5人サイズといったところでしょうか。縁は黒御影石で槽内は淡いターコイズブルーのタイル貼り。こちらの浴槽は一般的なものよりも造りが深く、館内の説明によれば78cmもあるんだそうです。
浴槽のお湯は底面より供給されており、縁よりしっかりオーバーフローしていました。分析書に記載された源泉温度(というか貯湯槽の温度)は43~4℃なのですが、供給の過程で冷めてしまうのか、館内表示によればボイラーで若干加温しているらしく、供給口での湯温は体感で42~3℃前後が維持されており、また湯船に備え付けの温度計は40℃ちょうどを指していました。
この浴場で使われているお湯は大東館・坪の内・静山荘という3つの源泉を混合させています。無色透明でほぼ無味無臭ながら、じっくりテイスティングすると弱芒硝感と弱石膏感が得られました。まだ口開け間もないタイミングだったためか、お湯がとてもクリアで澄み切っており、光を受けた槽内のタイル目地がレインボーカラーに輝いていました。スルスルスベスベの中に弱い引っ掛かりが混在する浴感であるとともに、ふわふわでエアリーな軽やかさも有しており、ぬるめの湯加減も相まっていつまでも長湯していたくなるような、実に優しい入り心地なのです、はじめのうちは…。と申しますのも、この優しさについ心を許して長湯をしていると、やがてボディーブローのように温まりがじわじわと効いてきて、気づけば力強く火照っており、ぬるいお湯なのに湯上りは汗が止まらず、まるで体の芯に熱源を埋め込まれたかのようなパワフルな熱さを覚えるのです。脱衣室の貼り紙に書かれていた「長湯は無用」という言葉は、決して誇張表現ではなかったんですね。布袋様もこのお湯に入り続けたら、きっと痩身できると思うのですが、人々に福を与えるため、敢えて入らず見守っているのでしょうね。
一見大人しく優しそうに感じられるお湯ですが、うちに秘めたるパワーはさすが本物の温泉。伊東のお湯の良さを実感できる共同浴場でした。
混合泉(岡147号・岡149号・岡191号)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 43.6℃ pH7.9 溶存物質1.299g/kg 成分総計1.299g/kg
Na+:233.8mg(52.64mval%), Ca++:175.8mg(45.39mval%),
Cl-:399.6mg(56.52mval%), Br-:1.7mg, SO4--:361.7mg(37.76mval%), HCO3-:34.3mg(2.81mval%),
H2SiO3:48.0mg,
伊東駅から徒歩10分(約900m)
静岡県伊東市末広町2-17 地図
16:00~21:00 木曜定休
250円
ボディーソープあり、棚の一部は施錠可能
私の好み:★★+0.5