今回記事からは鳴子温泉エリアのお風呂を連続して取り上げてまいります。まずは新鳴子温泉に属する「まつばら山荘」から。以前取り上げたことのある「久田旅館」と同じく江合川の左岸にあり、「久田旅館」から川に沿って数百メートル川下へ進んで狭い路地を入った先に位置しています。目の前には踏切があり、すぐ裏手を陸羽東線の線路が横切っているという鉄ちゃんにはたまらないロケーションです。川の左岸側の温泉宿は、右岸側の国道沿いのように旅館が並んでいるわけではなく、畑や民家の間にポツンポツンと点在しているだけなので、こちらのお宿もまるで一軒宿のような佇まいです。
今回は日帰り入浴での利用です。ネットで仕入れた情報によれば日帰り入浴の受付時間は8:00から19:00とのことでしたが、私が夕方16時頃に訪ねて入浴をお願いしますと、帳場から出てきたおばちゃんは「今日はもう閉めようと思ってたところなのよ」と言いつつも、どうぞどうぞとお風呂へ通してくださいました。こちらで入浴利用する場合は、事前に空いているか確認した方がよいかもしれませんね。
クランク状に伸びている廊下を進んだ先に、朱色と紺の暖簾がさがり、その前はちょっとした休憩処になっていました。
シンプルながらも綺麗に清掃されている脱衣室を抜けて浴室へ。
浴室内にはモール泉のような木材臭的芳香が湯気とともに充満していました。お風呂は内湯のみですが、奥に長くて高い天井のおかげで空間容積が大きく、それゆえ湯浴みの非日常感を高揚させてくれる伸び伸びとした環境が確保されており、また木材を多用したぬくもりのある色調とホワイト系のやさしいコーディネートが、くつろぎの場に相応しい視覚的ま安らぎをもたらしていました。
まつばらという宿名を表しているのか、手前と奥の壁上部には、一つ松の家紋を簡易化させたような松の模様が施されていました。
洗い場にはシャワー付きカランが3基並んでおり、カランから出てくるお湯は源泉ですので、洗面器に溜めると淡い褐色を帯びているのがわかります。
浴室の奥に据えられた浴槽は右側の角をカットしたような五角形。手前側の幅は約3mで奥行きは約4mです。総檜造なので肌への当たりが優しく、かつまた入り応えもあり、湯船に体を沈めると良い感じにフィットしてくれます。温泉は最も奥に設置された湯口よりドバドバ吐出されており、湯船のお湯は琥珀色の半透明で、私が訪れた薄暗い時間帯ですと底がみえにくいほどの透明度でした。湯加減は42〜3℃なので若干熱めですが、湯中ではまるでローションのようにニュルンニュルンと肌を滑るとてもなめらかな浴感を堪能でき、このお風呂に入れば、美しい方はより美しく、美とは無縁のおじさんでもそれなりに美しくなれるのではないでしょうか。
湯中では茶色や黒褐色の小さい浮遊物が舞っており、湯船の中に桶を突っ込んでお湯を掬ってみると、上画像のようにたやすくキャッチすることができました。
こちらでは完全放流式の湯使いを実践しており、湯船のお湯は手前側の縁にある切り欠けから惜しげも無くオーバーフローしていました。洗い場の床には無数の穴があけられており、これによって排水が促されているのですが、なめらかなお湯ですから足元が滑りやすく、それゆえスリップ防止の意味でもこの穴は重要な役割を果たしているのでしょう。
館内には3つの源泉の分析書が掲示されており、各源泉の名前は「銘剣の湯」「まつばら温泉」そして「銘剣の湯・まつばら温泉混合泉」です。「銘剣の湯」は純重曹泉で50℃以上の高温なのですが、これに単純泉かつ40℃未満の「まつばら温泉」源泉をブレンドさせて、お風呂へ供給しています。つまり温度の異なる2つの源泉を混ぜることにより、加水することなく温度を調整しているのですね。ブレンド前の源泉とブレンド後のお湯の全てに関して分析書を明示している点に、お宿のお湯に対する誠意が伝わってきます。
さてお湯に関するインプレッションですが、見た目は上述の通り紅茶を思わせる淡い褐色ですが、室内の光量によっては濃い色合いにも見え、また湯中には黒や褐色の小さな湯の華がたくさん舞っているため、場合によっては余計に濃く濁っているように見えることもあります。味や匂いに関しては、いわゆるモール泉の特徴とほぼ同じであり、重曹的な清涼感を伴うほろ苦みがあり、材木のような芳香が湯気とともに湯面から放たれています。ちょっと熱めの湯加減でしたが、かといって攻撃な刺激や逆上せるような嫌味な熱の篭りはなく、湯中では不思議と後ろ髪が引かれる気持ちよさに全身が包まれ、お風呂から上がった後はよく温まっているのに粗熱の抜けも早いため、程よい温浴効果が続いてくれました。モール泉的な芳香はもちろんのこと、ニュルンとするとてもなめらかな浴感といい、あたたまるのに爽快感を伴う湯上がり後のフィーリングといい、実に素晴らしい私好みのお湯です。鳴子には様々な泉質のお湯が沸いていますが、私は東鳴子から川渡にかけて分布しているモール泉のお湯が最も好みです。モール泉らしさをもたらしているはずの純重曹泉の「銘剣の湯」に単純泉のお湯を混ぜてこの個性が発揮されているのですから、「銘剣の湯」単体ですと、果たしてどんな浴感が楽しめるのでしょう。一度は体験してみたい気がします。
こちらのお宿で日帰り入浴すると、料金支払い時に鉱泉水のPETボトルを1本いただけます。こちらでは宿泊業の他、温泉水の販売を積極的に展開しているんですね。お宿の公式サイトを見ても、宿泊業より鉱泉水販売がメインであるような印象を受けます。実際に冷やして飲んで見たところ、その喉越しの良さには感激してしまいました。
銘剣の湯
ナトリウム-炭酸水素塩温泉 58.0℃ pH7.2 溶存物質1424.8mg/kg 蒸発残留物998.9mg/kg
Na+:304.3mg(90.07mval%), Ca++:12.8mg, Fe++:0.6mg,
Cl-:60.5mg(11.79mval%), HS-:0.2mg, S2O3--:0.3mg, HCO3-:752.0mg(84.91mval%),
H2SiO3:245.4mg, CO2:146.3mg,
(平成21年4月3日)
加水加温循環消毒なし
まつばら温泉
単純温泉 38.5℃ pH7.6 溶存物質419.8mg/kg 蒸発残留物306.0mg/kg
Na+:51.7mg(70.98mval%), Ca++:8.4mg, Fe++:1.0mg,
Cl-:4.6mg, HS-:0.1mg, S2O3--:0.1mg, HCO3-:158.8mg(78.31mval%),
H2SiO3:156.5mg, CO2:9.9mg,
(平成21年4月3日)
加水加温循環消毒なし
銘剣の湯・まつばら温泉混合泉
単純温泉 44.6℃ pH7.5 溶存物質734.4mg/kg 蒸発残留物506.7mg/kg
Na+:132.2mg(86.21mval%), Ca++:7.1mg, Fe++:0.9mg,
Cl-:15.4mg, HS-:0.1mg, HCO3-:348.7mg(86.12mval%),
H2SiO3:191.7mg, CO2:37.4mg,
(平成21年4月3日)
加水加温循環消毒なし
宮城県大崎市鳴子温泉字久田42 地図
0229-84-7010
ホームページ
日帰り入浴時間は8:00〜19:00らしいのですが念のため事前に要確認
500円
貴重品帳場預かり、シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★+0.5