昨年(2016年)秋の某日、黒湯でおなじみの東鳴子温泉「高友旅館」で一晩過ごしました。こちらのお宿に関しては、以前日帰り入浴した際の記録を2013年5月に拙ブログで取り上げたことがありますが(当時の記事はこちら)、今回は宿泊して、館内に複数あるお風呂をたっぷり満喫してまいりました。
●客室
館内の中央にある板張りの広間には、コインを投入すると前後に動く馬の形をした子供用乗り物(ムーバー)が置かれていました。この手のもの(サトちゃんムーバーなど)は昭和の商店街の軒先でよく見られましたが、まさか平成もまもなく30年目を迎えようとしているのに、旅館の中でこんなレトロなものと再会するとは予想だにしませんでした。ただ、今でも動くかどうかはわかりません。
明るい昼でももののけが出てきそうな廊下を進んで客室へ。途中で見かけた鳴子名物のこけしは埃をまとって残念な姿に。
長い廊下をひたすら進んでいった先が、今回案内された自炊棟の客室です。今回は素泊まりなので、宿で食事はいただいておりません。某大手宿泊予約サイトの口コミを見てみますと、古いという客観的な視点やお湯の評価が高いという点に関してはどなたも共通しているものの、宿泊施設に対してはお客さんの価値観によって大きく異なり、古い建物や昔ながらの湯治宿風情に対して理解がないと、どうしても芳しくない評価となってしまう傾向があるようです。
湯治宿ですから客室には自炊用の台所が備わってあり、冷蔵庫や洗面台も室内に用意されています。夕食は外食で済ませましたが、朝食はコンビニで弁当を買ってきて、館内にある共用の電子レンジで温めていただきました。
お部屋では一晩寝て過ごすだけですから、布団を被って寝てしまえば良い。私がこの宿に泊まった目的は、ホスピタリティやアメニティなどではなく、宿ならではの温泉に入ること、それだけです。館内には5つのお風呂があり、それぞれ趣向が異なりますから、宿泊滞在中にその全てを制覇することにしました。
●黒湯
まずはお宿の名物である「黒湯」から入ってみましょう。こちらのお風呂は、複数ある浴場の中で最も大きいため、実質的な主浴場として位置づけされているようです。拙ブログの過去記事でも取り上げておりますが、結論から申し上げると当時の様子と全く変わっておらず、その変化のない姿を目にして安心しました。昭和の木造校舎を彷彿とさせる廊下を歩いて浴場へ向かうのですが、その途中に「名湯 黒湯について 気にしないでください」と題された案内書きが掲示されており、何を気にしてはいけないのかといえば、このお湯は空気に触れると黒色に変化するので不潔ではなく、ゴミでもないよということを訴えていたのでした。
なお、この廊下の突き当たりには女性専用の小さな浴室があるのですが、そこで使われているお湯は黒湯ではなく(顕の湯源泉が引かれているようです)、しかも内部はかなり老朽化が進んでおり、正直なところ、ひなびたお風呂に慣れているはずの私でも一瞬たじろいでしまうほどでした。
脱衣室の壁に貼ってあった「ケロリンカプセル」の広告シールも以前のまま。上部の剥がれ方も全く変わっていません。
お風呂の様子も前回訪問時と全く同じであり、入室した瞬間に鼻腔をツンとアブラ臭が鼻腔を刺激してくる点も全く同様なのですが、後述するように湯船に張られている黒湯の色合いが若干異なっているように見えました。また、前回は調子が悪かったもののお湯を吐出できていた洗い場の2つのシャワーは、今回は両方とも全然使えない状態でした。この数年間でとうとうお陀仏になってしまったようです。
勾玉のような形状をした黒湯の浴槽。前回訪問時は名前の通りにお湯が黒く見えたのですが、今回は黒さが若干薄い代わりに暗いウグイス色が強く出ているようでした。この手のお湯はコンディションや光線の具合によって色の見え方が異なりますので、マニア的な視点で申し上げれば、何回も訪れて日や時間による違いを観察するのも一興かと思います。
黒い湯船へ注ぐ湯口では真っ白な湯の華がユラユラ揺れており、そのコントラストが鮮やかです。湯使いは完全放流式。浴槽縁の切り欠けから、長年にわたる成分付着で丘のようにこんもり盛り上がっている流路へ、お湯が絶え間なく溢れ出ています。湯中ではツルスベの滑らかな浴感が得られ、お湯を口に含んでみますと、苦味よ弱タマゴ感、弱炭酸味、そして鼻の粘膜を刺激する消毒薬のようなアブラ臭が感じられました。
浴室の真ん中で斜めの立つ塔も健在。根元はこんもり盛り上がっており、その表面には細かなうろこ状の模様が形成されていました。
同じ浴室内にあるもうひとつの浴槽「プール風呂」。なるほど四角いコンクリ造の浴槽はプールのようにも見えますね。画像を見て一目瞭然ですが、黒湯とは全く違う「顕の湯」という別源泉のお湯が張られており、青白みを帯びた貝汁濁りを呈しています。こちらのお湯からは石膏的な甘味、ほろ苦み、弱タマゴ感、そしてマイルドなアブラ臭が得られ、黒湯にはひけをとるものの良好なツルスベ感が肌に伝わりました。源泉自体はかなり熱いのですが、そこに水が加えられることによって、私の体感で41℃前後という入りやすい温度に調整されていました。
一度に二度美味しいこの浴室だけでも十分に面白いのですが、他にもまだまだお風呂がありますので、ここで満足することなく次へ向かいましょう。
【黒湯】
幸の湯
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩泉(硫化水素型) 57.8℃ pH6.7 溶存物質2490.2mg/kg 蒸発残留物1630mg/kg
Na+:518.9mg(85.30mval%),
Cl-:141.1mg(13.76mval%), HS-:2.5mg(0.28mvl%), S2O3--:0.4mg, HCO3-:1430mg(81.02mval%),
H2SiO3:228.1mg, CO2:385.3mg, H2S:3.8mg,
(平成21年10月2日)
加水加温循環消毒なし
【プール風呂】
顕の湯
ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩泉 74.6℃ pH6.8 溶存物質2252.6mg/kg 蒸発残留物1461mg/kg
Na+:375.7mg(64.76mval%), Mg++:34.1mg(11.14mval%), Ca++:105.8mg(20.93mval%),
Cl-:104.3mg(11.00mval%), S2O3--:0.5mg, SO4--:222.6mg(17.32mval%), HCO3-:1166.9mg(71.53mval%),
H2SiO3:228.1mg, CO2:385.3mg, H2S:0.3mg,
(平成21年10月2日)
加水加温循環消毒なし
後編へ続く