彼は新任の国語教師だった。半年前まで。
教師になりたての頃、彼は理想に燃えていた。白墨のひんやりした、硬質と脆さを併せ持った触感が彼は好きだった。しかしもちろん相手は白墨ではなく、受け持ちのクラスである中学一年生34名である。34名。忘れたい、忘れ難い名前の数。安楽椅子のように体を沈める子。机の下で漫画をめくるのに忙しい子。机を叩く子。机を蹴る子。
クラスは五月に崩壊した。砂の城が必ず崩壊するように、彼の教室の秩序は崩れ去った。彼は朝起きても通勤できない日が続いた。職員会議。PTA。子どもたちと大人たち、すべての周りの人々の、憐れみさえも含んだ、彼を非常に低く値踏みする視線。
彼は入院し、退院し、学校を辞め、無職になった。
シンプル。何とシンプルなことか。入院、退院、辞職、無職。
は! はは!───彼は激しく咳き込んだ。彼は五月に入院して以来、喉の痛みが退いていない。
理想の教育。
ワタシハ理想ノ教育ヲ目指シタ。
そして今は雨を避ける住処さえ逃げ出してきた。
理想の───母に頼るわけにはいかない───せめて理想の、人生に対する、責任の取り方。
彼は豪雨を見つめた。狭い川の向こう岸すらぼやけて見えた。土手の上の街は完全に彼から姿を消した。雨と川のうなる中、彼だけが立っていた。
薄い本をいっそう強く胸に押し当て、彼は三歩前に出た。
彼は全身を雨に打たれた。
教師になりたての頃、彼は理想に燃えていた。白墨のひんやりした、硬質と脆さを併せ持った触感が彼は好きだった。しかしもちろん相手は白墨ではなく、受け持ちのクラスである中学一年生34名である。34名。忘れたい、忘れ難い名前の数。安楽椅子のように体を沈める子。机の下で漫画をめくるのに忙しい子。机を叩く子。机を蹴る子。
クラスは五月に崩壊した。砂の城が必ず崩壊するように、彼の教室の秩序は崩れ去った。彼は朝起きても通勤できない日が続いた。職員会議。PTA。子どもたちと大人たち、すべての周りの人々の、憐れみさえも含んだ、彼を非常に低く値踏みする視線。
彼は入院し、退院し、学校を辞め、無職になった。
シンプル。何とシンプルなことか。入院、退院、辞職、無職。
は! はは!───彼は激しく咳き込んだ。彼は五月に入院して以来、喉の痛みが退いていない。
理想の教育。
ワタシハ理想ノ教育ヲ目指シタ。
そして今は雨を避ける住処さえ逃げ出してきた。
理想の───母に頼るわけにはいかない───せめて理想の、人生に対する、責任の取り方。
彼は豪雨を見つめた。狭い川の向こう岸すらぼやけて見えた。土手の上の街は完全に彼から姿を消した。雨と川のうなる中、彼だけが立っていた。
薄い本をいっそう強く胸に押し当て、彼は三歩前に出た。
彼は全身を雨に打たれた。
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