た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 97

2007年06月15日 | 連続物語
 不愉快であった。私の胸の内を明かせば、不愉快であった。私はこのような、互いに醜態を晒す別れ方を望んでいたわけではない。雪音はなぜ汚らわしいものでも近づいてきたかのように後退りするのか。私はなぜあんな衝動的な行為に走ったのか。ボタンを千切るような野蛮な真似を! 湿り気を帯びた風が強く吹きつける。なぜこの女は馬鹿みたいに砂まみれで泣いているのか。なぜ・・・・我々は見られているのか。
 車外に出るまで気づかなかったことだが、海岸にいるのは我々二人だけではなかった。我々は監察されていた。表情が判明しないほど離れた波打ち際に、六歳くらいの少女がいたのである。しゃがみこんで、ままごとのスコップを使ってバケツに砂を詰めていた。あるいは違うものを詰めていたのかも知れないが、遠目にはわからない。どうでもよい。子供というのはつくづく詰らぬ遊びで大人の邪魔をするものである。加えて、無遠慮に見つめる、という誠にはた迷惑な特技を彼らは持っている。車から飛び出した我々二人の存在に気づくと、少女は棒立ちになり、口をあんぐりと開けてこちらを見つめた。
 事態を穏便に収拾させるには、浜辺はあまりにも茫洋として広い。

(つづく)
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