た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 64

2007年01月07日 | 連続物語
 私は彼らを見捨て、部屋を出て美咲の後を追うことにした。だいたい、個人主義だか我が儘だか、その二者択一だか同一視だか知らないが、問題は私にではなく私の周囲にあったという選択肢は彼らには皆無なのか。私が善良なる犠牲者だということが彼らにはわからないのか。
 そもそも、罪深きパリサイ人よ。お前たちこそが生前の私に対する態度を取り誤ったかも知れないという反省はないのか。私が孤独だったことは確かである。おそらく確かである。それは私の責任なのか。それとも私をそこへ追い遣った者の責任なのか。
 美咲。犠牲者の顔をした加害者よ。お前は大学教授というものが精神的に非常な負担を強いられる職種であることを、最後まで理解してくれなかった。高度に知的な職業は、仕事を離れたときに精神の適度な退行を必要とする。張り詰めた神経を一旦緩めないと、再び強く張り詰めることが困難になるからだ。それで私がちょっと容姿をからかったり机を叩いたりすると、どうだ。お前はもう野蛮人でも見るような目つきで黙り込んでしまった。お前には冗談が通じなかった。真面目はもっと通じなかった。心が通じなかったから是非も無い。知っているか。愛の反対は憎しみではなく無視であることを。かのマザー=テレサがかつてそう喝破したことを。お前の無愛想がいかに私の癇癪を助長させたか、あの女はわかっているのだろうか。

(つづく)
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