た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

隣人

2008年02月18日 | 習作:市民
 私たちは綺麗な夜を送ることができます。ええと、飲み干して下さい。飲み干しましたか。飲み干したらグラスを傾けて下さい。もっと。もっと。ほらね。それでも落ちない氷のように。そうなんです。グラスを傾けてもなかなか落ちない氷のように、私たちは綺麗な夜を送ることができます。
 でもあんまり傾けると氷も落ちちゃいます。カウンターも濡れます。ひょっとしたら袖まで汚れるかもしれない。ここのチーフには叱られるでしょう。リスクですね。そのリスクを意識しながら、どこまで傾けても氷が落ちないでいられるか。これはゲームのようなものです。私たちはこのように綺麗な夜を送ることもできるんです。

 ふう。

 でも人生で一度や二度、思いっきり氷をぶちまけたいことってないですか。グラスを逆さに振って、ああグラスなんてしょせん空っぽなんだと実感したくなることってないですか。グラスに残しておくべきものは何一つとして無かったんだと。それからおもむろにグラスを手の平で粉々に砕いて、生温かい血糊の臭いを嗅ぎながら・・・。
 ごめんなさいね。少ししゃべり過ぎました。今夜も綺麗な夜を送りましょう。私はこれでも、飲み干したグラスの中をこうして旋回する空しくも大きな氷を眺めるのが、


割合好きなんですよ。
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