「こんなところに突っ立っているのを見られたら、それこそ疑われちゃうよ」
白い吐息が一つ、女の口から流れた。
「どうせもうすぐ捕まるんです」
「そん、そんな、そんなことはない」
「でも警察はずっと私を付け狙ってるし。もう、何だか疲れました」
「笛森君、だから私を信用してくれないかなあ」
藤岡は志穂の背後に寄り添う。
「だからさ、私の研究室に来て君が尋ねたことは、私しか知らない事実なわけだよ。私しか。私の出方次第で・・・も、もちろん、もちろん君は何一つ、警察に疑われるようなことは私に尋ねていない。いない。いないけどさ」
女の自分を見る目に、藤岡は慌てて訂正を入れた。「だけど、ほら、私の所にもすでにけ、警察が来ている。二月四日の君の行動を調べに。わかるだろう? ね? 私は何とでも答えられるわけだ。それなのに、私は必死で、必死で君をかばおうとしているんだよ。それもそろそろ限界に近い。ね、私の言うことを聞きなさい。だからもう行こう」
笛森志穂は、弱みを握られている人間特有の、憎々しげだが力ない視線を男に投げかけた。
すぐに視線を屋敷に戻す。
「犯罪者は、犯行現場にもう一度戻ってみたくなるんですってね」
「笛森君」
「私が警察に自首したら、藤岡さんも捕まるんでしょう?」
「な、な、な、何を言うんだ」藤岡の狼狽ぶりは甚だしい。「私は君に、宇津木教授の住まいを教えただけじゃないか」
「教授が在宅の日と、不在の日、それに、学生のふりをしても気づかれないことを教えてくださいました」
「ちょっ、ちょっと笛森君。いい加減にしたまえ。君はひ、人の親切を、あだで返すつもりかい」
女の白い息は、ため息である。
「安心してください。私だけです」
遠い記憶を見つめるように、二重瞼は屋敷を見つめた。
「私だけです。手を下したのは」
(こちらはこちらでつづく)
白い吐息が一つ、女の口から流れた。
「どうせもうすぐ捕まるんです」
「そん、そんな、そんなことはない」
「でも警察はずっと私を付け狙ってるし。もう、何だか疲れました」
「笛森君、だから私を信用してくれないかなあ」
藤岡は志穂の背後に寄り添う。
「だからさ、私の研究室に来て君が尋ねたことは、私しか知らない事実なわけだよ。私しか。私の出方次第で・・・も、もちろん、もちろん君は何一つ、警察に疑われるようなことは私に尋ねていない。いない。いないけどさ」
女の自分を見る目に、藤岡は慌てて訂正を入れた。「だけど、ほら、私の所にもすでにけ、警察が来ている。二月四日の君の行動を調べに。わかるだろう? ね? 私は何とでも答えられるわけだ。それなのに、私は必死で、必死で君をかばおうとしているんだよ。それもそろそろ限界に近い。ね、私の言うことを聞きなさい。だからもう行こう」
笛森志穂は、弱みを握られている人間特有の、憎々しげだが力ない視線を男に投げかけた。
すぐに視線を屋敷に戻す。
「犯罪者は、犯行現場にもう一度戻ってみたくなるんですってね」
「笛森君」
「私が警察に自首したら、藤岡さんも捕まるんでしょう?」
「な、な、な、何を言うんだ」藤岡の狼狽ぶりは甚だしい。「私は君に、宇津木教授の住まいを教えただけじゃないか」
「教授が在宅の日と、不在の日、それに、学生のふりをしても気づかれないことを教えてくださいました」
「ちょっ、ちょっと笛森君。いい加減にしたまえ。君はひ、人の親切を、あだで返すつもりかい」
女の白い息は、ため息である。
「安心してください。私だけです」
遠い記憶を見つめるように、二重瞼は屋敷を見つめた。
「私だけです。手を下したのは」
(こちらはこちらでつづく)
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