た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

一月の終わりの木曜日のバーで

2008年01月31日 | 習作:市民
 見えないんですか。あなたには。この雪が。私もう五杯目です。一人で飲み始めて二杯目かな。三杯目? 見えないんですか。あなたには。私の胸を翳るこの雪が。

 だが如何せん男性客の方は数十年前の桃源郷を夢見る唾液が今まさにダブルカフスに懸からんとしていた。こういうとき酒に強い女はえてしてあまりに多くのことを男に要求しすぎるのだ。

 私はあなたを置いては帰れない。あなたは私に帰られては、おそらく生きていけない。今日は随分冷え込むようね、マスター。そう。むしろ降った方が暖かくなるのに。マスター、あのね。向こうのあのお一人さん。私から一杯おごってあげて。嘘よ、嘘。はは。もちろん嘘よ。ごめんなさい。この人にお水のお代わりちょうだい。

  ☆   ☆   ☆

 あなた。ねえあなた。あなた。私あなたにとっていい女でいてる?
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