太古の話である。
ウダライは、頬骨の張った、面長の大男であった。怪力比類なく、性情醜悪にして、こと色欲に関しては見境がなかった。月の満ちた女と見れば、誰かれ構わず押し倒し、子をはらませた。彼の妻は両の指で数えきれないほどいた。
落ち葉の敷き積もる林間で、葦の生い茂る湖畔で、満月の冷ややかに照らす断崖で、ウダライは快楽におぼれた。相手はまだ胸の膨らみ足らない少女のこともあれば、既婚の女のこともあった。ウダライに妻を寝取られた男たちは、唇を噛んで悔しがったが、力ではかなわないのでどうすることもできなかった。声なき憎しみと妬みを背に浴びながら、ウダライは女を凌辱し続けた。
しかし彼の命運も尽きるときが来た。彼の最初の妻イメの宿した子、つまり彼の長男に当たるユクベが成長し、父に比肩するほどの大男になったのだ。ユクベがめとったネシカは、高原に咲く百合のように美しい女性であった。ウダライは、自分の息子の妻であるこの女にまで手を出した。それは春雷のとどろく真昼のことであった。ネシカの悲痛な叫び声は集落の隅々まで響き渡った。彼女は必死に抵抗し、逆上したウダライに首を絞められ、絶叫して息絶えたのであった。
夫であるユクベは怒り狂った。それから十七日目の新月の晩、湧き水のほとりで顔を洗っていた父親は、背後から忍び寄った我が子に、樫のこん棒で百回叩きのめされて死んだ。
歳月は過ぎた。
ユクベは髭も伸び、亡きウダライと寸分違わぬ男になっていた。周りには何人もの妻たちがはべっていた。彼はしっかりと父親の血を受け継いだ男であったのだ。
そんなユクベの栄華は、彼の二人の息子によって撲殺されるまで続いた。
理由は、ユクベが部族の女を独占し、息子たちにさえ分け前を与えようとしなかったことにあった。
大雨でできた水溜りに、誰かも判別できないほど打ち砕かれた彼の死体が転がった。
手を下した二人の息子も、やがてまた、同じ道を歩んだ。
こうして一族は、父親殺しを、まるでそれが習わしであるかのように繰り返した。忌まわしい歴史は、五世代続いた。
しかしそれも途絶えるときがきた。
五世代目のバルカは、少し知恵があった。抑えがたい憤怒に駆られ、目もくらむ日差しを浴びながら父親殺しに手を赤く染めた後で、彼は一人洞穴に引き籠り、三日三晩思い悩んだ。自分がいつの日か同じように息子に殺されることを予見し、恐れた。そして彼は一大決心をした。自分の息子たちをすべて殺してしまうことにしたのだ。自分が殺される前に先手を打つのだ。すでに狩りに参加できるほど成長していた少年も、生まれたばかりの赤子も、みなこの父親の手にかかって殺された。深い淵に投げ入れられた者もいれば、顔を分厚い手で覆われ息絶えた者もいた。狩りの最中に矢じりで突き刺された者もいれば、夕餉の準備に焚かれた火の上で焼かれた者もいた。集落にいるほとんどすべての男の子が彼の血を引いていたので、バルカは狂人のような強い意志でもって自らの決断をやり遂げなければならなかった。
夏が過ぎ、雲が流れ、木々が幾万の葉を落とし終える頃、一帯には、悲しみに暮れる多数の女たちと、たった一人の大男がとり残された。
こうして、遠からず、その部族は滅んだ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます