た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

無計画な死をめぐる冒険 144

2009年06月17日 | 連続物語
 気温のせいか、彼女の脚が微かに震えている。
 「何だか、わかんないですけど。最近急に、何だか、威圧感が出てきたというか。この近くを通ると、息苦しくなることがあって」
 不動産屋と家政婦は、相槌も打てずに小柄な未亡人を見つめた。
 「ま、奥さん、ほんとですか。そんな奇妙な松なら、それこそ切ってしまった方がよかないですか」大仁田は失礼な提案をする。
 「そうねえ。でも何だか、よけい祟りがありそうな気がして」
 祟れるものなら二人とも祟ってやるわ、ヌケブスと薄情女が。私を毒殺した犯人との疑惑は晴れつつあるにせよ、私に対する数々の粗暴な態度。あまつさえもし、屋敷の売却と、黒松の伐採に同意した暁には、末代までも呪ってやる。しかし末代というのはつまり博史のことか。我が身内を末代までも呪うとは可笑しな話である。そもそも、松を切り倒した後の、霊魂としての私はどうなっているのか。今度こそ昇天するのか知らん。
 一老木の思惑などあずかり知らぬこと、日焼け男は美咲の話に興味津々である。
 「ふむ。祟りですか。ほほ、祟りが出ますか。失礼ですが宇津木さん、その祟りと、亡くなった旦那さんとは、何か関係がありますか」
 どうやらこの男は何らかの噂を聞きつけていると見える。
 「ございません」
 美咲は即座に打ち消したが、即座に過ぎた。日焼け男はにんまり笑った。
 「なるほどなるほど。関係ない」
 「関係ございません」
 「ほほほお。何だかわかってきた気がしますなあ」

(つづく)
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