ピカビア通信

アート、食べ物、音楽、映画、写真などについての雑記。

ボルベール<帰郷>

2008年03月27日 | サッカー


アルモドバルの、「ボルベール<帰郷>」という映画を
見る。
このスペインの監督、ペドロ.アルモドバルは、今や
国内では、巨匠的な位置を築きつつある監督である、
らしい。
嘗ての「罰当たり修道院の最期」の頃の、カルト的評
価の時代(タイトルと極彩色の映像の割には、あまり
個性的には感じなかったが)からすると、隔世の感で
ある。
しかも、国際的にも評価は上がっている。
それは、カルト的要素を抑制し、ヒューマンドラマを
全面に押し出してきた彼の映画の変化と一致している。
前回見たのは「オール.アバウト.マイマザー」とい
う映画だったが、ヒューマンドラマとしては実に良く
出来ていると思った。
おかしな人間が、しつこく病的に繰り広げる嘗ての映
画と比較すると、主題に沿った一つの物語として良く
まとまっているのだ。

で、今回の「ボルベール<帰郷>」だが、同じく良く
出来たヒューマンドラマではあると思う。
主演の「ペネロペ.クルス」も、主人公に上手くはまっ
ているし、アメリカなんかにいなくて、同じくタイトル
どおりに<帰郷>して良かったのではと思う。
やはり、スペインの風土が似合うのだ。
こういうのも、水を得た魚とでも言うのだろうか。
ただ、内容は普通ではない(日常的に良くある話では
ないという意味で)。

二代にわたる「近親相姦」による殺人、という事実か
ら全ての話は発展していくのである。
日本であれば、おどろおどろしい話だ。
「横溝正史」の世界。
しかし、この映画はその謎解きに重きを置いているわ
けではない。
適度な極彩色と、スペインの乾燥した風土が、重い忌
まわしい話を乾いた風のように運んでくれる。
そして主題となっている、郷土=母、そして母との和
解=帰郷=胎内回帰と上手い具合に展開していく。
全てを包み込む母親。
罪の彼岸としての存在。
聖母のイメージである。
それは同時に、父親不在の物語でもあった。

と、尤もらしく解説は出来るが、結局良かったのかと
聞かれれば、最初の良く出来た映画であるという感想
が全てである。
ヒューマンドラマとしてなら「山田洋次」のものより
遥かに良いと思うが。
正直なところ、一番良かったのは、最後のエンドロール
に流れる、いろんな柄の映像である。
日本的な柄にも見える花などの柄が、次から次と変化
していく映像は、なかなかというかかなり良かった。
最後に、こういう洒落たエンドロールを用意した映画
は記憶に無い。
これだけでも一見の価値がある、と思った。
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