幻想舞台
「自然役者」
雑木の林
茫々たる枯草の窪地に
立木を柱にせし萱葺き小屋あり
草の丈ほどに古板渡され舞台の如し
八方囲ひなく
楢および椚の枝など透けて見ゆ
かつて舞ひしことありや
鼓の音など響かせし時ありや
廃れし趣にはあらず
無造作なり
舞台の前にて草刈る百姓四人ほど
ひたすら鎌を打ちつく
皆尻のみ向け面見えず
こなたへ退き来たれり
茨の一叢垣をなし
わが居る小高き道と分く
この道窪地を抱き
かの舞台と真向かへり
半ばの月を模るにやあらむ
突如深編み笠を被りし素浪人現る
草刈る百姓どもに近づき
「遊ばせて下され」
驚き慌てるに一歩を進め
しぶとく笑ひかけぬ
腰を抜かさむばかりの百姓ども
一斉にわれを見つめけり
口元薄く歪めしかの浪人
左手にてわれを拝む
咄嗟に脱兎のごとく走りしが
茨の垣をひらり飛び越え
われを追ひ詰めぬ
「遊ばせて下され」
更に頼む仕種なり
迷ひ瞬く間にして大危を悟る
われトンボを切りし刹那
口元引き締めし素浪人が居合抜き
鼻先に冷風走る
わが体枝を越え木の陰に入り
いつしか舞台に立ち居たり
「遊ばせて下され」
口真似せし言葉声にならず
この舞台無造作なり
命を舞はすに相応し
森の奥の舞台小屋を読者に眺めさせつつ、
詩的な、時代的なドラマが展開する。
演者は自分と百姓らと浪人風の侍だけか。
その三者に動的な場面を設け、次第に迫力を増すものの、決着は読者任せか。
そんな風に読ませてもらいました。
行きつく暇もないほどに。
旧仮名つかいをふんだんに使われているのも、一種効果的でした。
(くりたえいじ)様、森の奥の舞台を感じていただき、ありがとうございます。
山里の小さな神社を取り巻く静寂の気が、ずっと心に残っていました。
今回、「じねん役者」の幻想舞台として、時空のレンズ越しに使わせていただきました。