スイカズラ
(城跡ほっつき歩記)より
ハナカマキリのようなスイカズラが咲いた
冬の寒さに耐えて待っていた白い生き物が
ムクムクと目を醒ましたのだ
この季節に逝ったひたむきな女性よ
あなたの小説には忍冬が効果的に描かれていましたね
裏切に悩んだすえ朝早く夫の元を立ち去る物語でした
密やかな言葉を絹のように紡いでいた女性よ
同人雑誌の合評会ではいつも目を輝かせていましたね
モデルはあなたかと問われ見返した目には翳りが見えましたが
「そういうことって文学と関係あるんでしょうか」
普遍的な女性として自立させたつもりなんですけど
質問した男は怯んだ様子で同席の仲間を見回した
「いやあ見事に自立していますよ」と長老が引き取った
別れの朝にひときわ匂い立つスイカズラの描写が巧い
主人公の悲しみと覚悟を痛いほど暗示していますよ
巻末の住所録には「気付」と表示されていましたね
男性の名前の後ろにあなたのペンネームがあって
寄宿か同居かと悩んだが詮索する者はいなかった
スイカズラが咲く季節に逝ってしまった才気あふれる人よ
あなたの気付先だった住所でも忍冬が匂っていますか
人生を終えたあと直ちに上梓した短編集は見事でした
あれはあなたが生前に手配したものですか
それとも気付の住所に記されていた男性の意思ですか
連携の見事さに仲間はみな息を呑みました
小説の中でスイカズラの蜜を吸う女の子を登場させましたね
「ミツバチさんと競争ね」とクスクス笑うヒロインとともに
ぼくは晴れ間をみつけて飛ぶ蝶をあなたに重ねました
作品をいろどる感情と運命の陰影
虚実のあわいに潜ませた人生の哀歓が
八十年を生き継いだ長老を何度うならせたことでしょう
忍冬という花の名のなんと象徴的なことよ
清らかさの裏に隠されたハナカマキリの妖しさは
作品の中の女性だけだったのでしょうか
ぼくは深夜あなたの作品集をひもといた後
裏切りを咀嚼するスイカズラの化身に追われました
夢の中まで白い白い触手に追いかけられるのです
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「花蟷螂」への連想とポエム創作、いつもながら敬服申し上げます。
この「忍冬」(スイカズラ)の画像を撮影しましたのは、たぶん9年ほど前の5月の今頃です。
記憶ではすでに昭和の終わり頃にはそこにあったものと記憶しております。
それはポツンと残された区画整理後の植木畑(農地の所有者が造園業者などに貸与)のような場所でした。
現在でもその植木畑そのものは残されていますが、数年ほど前ころに宿主の方の行先が決まったらしくその姿も見えなくなってしまいました。
しばしば庭木としても利用されることから園芸用に栽培されていたという可能性もあります。
一方で、野鳥の食餌による発芽という可能性も考えられますが、もはや今となっては知る由もありません。
画像からもお分かりのように忍冬の生育していた辺りは木々に囲まれたやや薄暗い環境でした。
現在では他の庭木の幼木が植えられているだけで、そこに「忍冬」が生育していた形跡は跡形もなく消滅しています。
もしもその芳香を偲ぶものがあるとすれば、少し離れたところで生育している樹高8mほどの金木犀ぐらいなのかも知れません。
いつも拙画像をご紹介をいただきお礼申し上げます。
いつもながら、御礼申し上げます。
ひとつの植物にも、生育環境の変化によって盛衰があるんですね。
他の庭木に寄生するツル性植物の特徴からも、こうした運命に見舞われやすいのですかね。
スイカズラに忍冬という字を当てた先人の感性に、あらためて感じ入った次第です。
ありがとうございました。