どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

ポエム332 『遠ざかる記憶を追って』

2022-10-10 02:05:40 | ポエム

鷺宮という街にぼくは20年ほど住んだ

妻は生まれてからずっとだから断然古株だ

そのころの事になると話が尽きない

ぼくは呆れたり微笑んだり爆笑したり

 

5歳ごろの彼女はまるで野生児だった

追いかける母親を振り切って逃げる逃げる

途中で下駄を脱ぎシャツを脱ぎ

パンツも脱いでスッポンポン

 

そのまま馴染みの本屋に飛び込んで

目指す本を見つけて立ち読みだ

おやじも承知で見て見ぬふり

客も誰ひとりおせっかいを焼かない

 

昭和20年~30年代の鷺宮は住みやすかった

話に出てくる有名人も数え上げれば切りがない

踏切を渡った白鷺には作家の壷井榮の家

後年には将棋の米長邦夫や弟子の林葉直子

 

芥川賞作家の笙野頼子も忘れられない

幻想作家と呼ばれる異色小説の書き手だ

画家の三岸節子は義母のお友だちだそうで

いっしょに食事したこともあるらしい

 

新青梅街道を越えたところには武蔵高校

スパイ騒動で有名なドンボスコ教会も

松本清張も取材に訪れている

デパートが迎えに来る彫金の桂盛行も

 

病気で倒れて杖と妻を頼る生活を続けたが

息子の桂盛仁は父を超える人間国宝に

親子兄弟まで江戸彫金の流れを組む彫金一族

こちらは有名人を並べた自慢の羅列・・・・

 

他人から見たら愚にもつかないことも

近くの記憶から消えつつある妻にとっては

ぼくが喜ぶ幼少期の貴重な出来事だ

放っておけばやがて消え去る人生の落穂ひろい

 

生まれついての野生児は今も健在

近くの山道を誰も追いつけない早足で歩く

ぼくには到底無理な人間ナビも務める

頼り頼られ日々爆笑の二人三脚は今も

 

 

 

コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 思い出の短編小説『親父の居... | トップ | 思い出の短編小説『ヒンズー... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (クリン)
2022-10-11 19:29:02
さぎの宮!!なつかしいです🐻✨クリンたち一時むさしせきに住んでいたので✨✨
ドンボスコ教会・・気になってしらべてしまいました💡
返信する
そうか、お近くに (tadaox)
2022-10-11 22:08:52
(クリン〉さんも武蔵関に住んだことがあるんですか。
鷺宮からは自転車でひとッとびですね。
教会と書きましたが、もしかしたら修道院というのが正解かも。
謎の多い事件で、結局明らかにならなかったようですね。
いやいや、世間は狭いですね。ありがとうございました。
返信する
私は野方で・・・ (知恵熱おやじ)
2022-10-12 01:37:59
「鷺宮」私にとっても懐かしい地名ですね。

1959年初夏から秋にかけて、私は同じ沿線の鷺宮から二つ新宿寄り「野方」のアパートに北海道時代からの二人の漫画仲間(井上英沖・長野晴之)とともに住んでいました。だからなのか、この沿線の駅名はどれもわが潜在意識の底から青春前期の記憶を呼び覚ましてくれる・・・

毎日のように目指す漫画について議論したり描いたりして熱く楽しい毎日でしたが、秋口には未完のままそれぞれの道に向けて野方を離れたのです。

井上英興氏は漫画家手塚治虫のアシスタントを経てやがて月刊雑誌『少年』で連載漫画「遊星少年パピー」(すぐにテレビ化されました)をスタートし、長野晴之氏は北海道札幌に戻り『北海道新聞』専属の政治漫画家として活躍。そして私は日暮里のボロアパートでまだ誕生したばかりの劇画へと・・・

窪庭さんのこの文章で久しぶりで、みんな貧しかったけれど、楽しい合宿みたいなぺえーぺえーの野方時代を何十年ぶりかで思い出させていただきました。
ありがとうございます。
返信する
西部線沿線 (tadaox)
2022-10-12 02:22:06
(知恵熱おやじ)様、ありがとうございます。
北海道時代のお仲間と上京直後に住んだ街が野方だったんですね。
鷺宮より物が豊富で、ぼくも月に何回かは買い物に行っていました。
線路沿いに歩いたり自転車に乗ったり、散歩コースでもあったんですよ。
西武新宿線沿線はとにかく住みやすい場所だったと思います。
新宿からも電車であっという間だし、小さな店もたくさんあって楽しい思い出でいっぱいです。
返信する
イメージが膨らむ (ウォーク更家)
2022-10-14 10:01:14
鷺宮で下車したことはありませんが、芥川賞作家、有名な画家、棋士、彫金家と多士済々なんですね。

更に、スパイ騒動や松本清張の小説の舞台と、話題に事欠きません。

イメージがどんどんと膨らむ街です。
返信する
鷺宮の今昔 (tadaox)
2022-10-14 14:26:16
(ウォーク更家)様、当時の鷺宮はいい所でした。
どこの街も大きく変わる中、この街も少しは変わったようですが川沿いは当時の雰囲気が残っています。
足跡を残していった有名無名の人びとのイメージを描いていただければ嬉しいですね。
返信する

コメントを投稿

ポエム」カテゴリの最新記事