どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

どうぶつ・ティータイム(131) 「中村ブン☆コンサート」を観て

2011-07-08 02:18:41 | 音楽

     



     (遅咲きのたんぽぽ・中村ブン☆コンサート「ふりむくな哀」)



 7月3日(日)午後2時、中野ゼロ小ホールで、中村ブンさんのギター弾き語りを中心にしたライブ・コンサートが始まった。

 かねて友人二人からブンさんの素晴らしさを聞いていたが、じかにステージを目にするのは初めてだった。

「ふう~ッ」

 演出だろうが、オープニングのあいさつで、ちょっとばかり疲れた感じのため息をもらしたのが、観客との距離を一段と近づけたようだ。

 自作の詩と曲で、よくある日常の風景や青春の一こまを披露したあと、物忘れしないうちにとバンドの紹介に入った。

 全員が艶消しに徹しているようなメンバーのストイックな雰囲気が、ブンさんの軽妙な挑発(?)によってより引き立った。

 そして、演奏。・・・・観客の一人ひとりの記憶に重なるギターの哀調と語り。

 安心して身と心を委ねられる場が目の前にあった。

 <ふりむくな哀>、<風に吹かれて>、<ひだまり>・・・・いずれの曲も、髪と髭の長い円めがねのコンマス渡辺氏の編曲らしい。

 他のミュージシャンも、チラシの写真で見る通り曲者揃い。

(左端が音楽監督・渡辺勝、その隣のビーチ帽が人気の箱守寿夫、順にベースの五十川博史、ヴァイオリン林美智子、ピアノ・アコーディオン竹田祐美子)

 素朴な照明が作り出すステージの陰影が、彼らの人生、われらの日常をゆくりなくも映し出しているようだった。

「ああ、いいなあ」

 気取らず、背伸びせず、ギラギラしない一幕の人情劇・・・・。

 ちょっぴり涙っぽい、照れくさい思いを胸の奥に押し戻しながら、フクシマで幼少期を過ごしたという中村ブンさんの現在の心境を垣間見た気がする。

「あの津波で家が流され・・・車が流され・・・たくさんの命が流され・・・哀しいはずなのに、辛いはずなのに、決して人前で涙を見せず、感謝の言葉は言っても、文句一つ言わない東北の人・・・」

「自分も東北人(福島生まれ)だというこ事を、こんなに誇りに思えたことはありません! これから、どう生きればいいのか・・・私に何ができるのか・・・分かりませんが、前を見て、とにかく・・・ガンバっぺ!」

 チラシに刷り込まれたメッセージが、出不精の重い腰を上げさせ、共感させたところもあるのだが・・・・。

 実際にステージを観て、もっと幅広いファンたちが、前々からたくさんいたことも知ることができた。


     


 休憩をはさんだ第二部で、会場に来ている方がたのお名前が一部紹介された。

 「あしたのジョー」の漫画家ちばてつやさんは、弟子か子分かとにかく多数を引き連れての来場らしい。

 劇画好きの身だから、思わず「ほほう」と唸っているところへ、今度は拉致被害者の横田めぐみさんの父・横田滋さんの登壇である。

 拉致問題が忘れられないよう、風化してしまわないよう、あらゆる機会をとらえて訴えている姿はテレビ等で知ってはいたが、目の当たりにすると痛切に心が痛む。

 一日一日高齢になっていく現実を前に、政治はいかんともできないのであろうか。

 お父さんの口から語られた今年中に動きがあるかもしれないとの期待が、期待通り成就することを祈る思いである。


 前後するが、ゲスト出演の女性歌手の「ヨイトマケの唄」は素晴らしかった。

 長身でボーイッシュないでたちで、佐良直美をイメージしながら聞き入っていたが、肝心のお名前を失念してしまったのは後で仲間と飲んだ酒のせいである。

 さっそく誰か教えてくれることを願って、失礼を平にお詫びする次第。


       

 中村ブン作・バント末吉画の絵本「かあさんの下駄」をスライドで写しながら、迫真の朗読も聞かせてもらった。

 携帯電話のカメラだから、いずれの写真も素人くさくて申し訳ない。

 我田引水の手口になるが、この日のコンサートマスターは、曲ごとにあっちへ行ったりこっちへ来たり、ふと気がつくといつの間にかピアノを演奏していたりする。

 待てよ、素人っぽい成り行きを強調しようとしたが、これは逆に玄人そのものか。

 とにかく肩の凝らない楽しいコンサートであったが、坦々とした進行の中にも、横田めぐみさんのこと、フクシマ原発被害者のことなどが伏流のように見え隠れした。

 忘れないこと、意識をそこに向けていること、その大切さを教えられたコンサートでもあった。


     (おわり)



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4 コメント

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心温まる鑑賞眼 (くりたえいじ)
2011-07-08 16:30:25

ひとつのコンサートの模様をこんなに心温かく、詳しく伝える文章を読んだことがないぼど。
当日の主人公である中村ブン氏の人間味と話芸と歌唱力がそうさせるのでしょうか。
それらを感受し表現するプログ氏の心の幅がそうさせるのでしょうか。

不肖小生もブンさんコンサートや著書に馴染んでいるひとりですが、聴くたび読むたび、温かい人間性を知らされるようです。
歌にしても文にしても、心に忍び寄り包み込む強さを感じさせずにおれません。

また、ブンさんとその仲間と言いましょうか、当プログではこの人たちの個性に触れているところも嬉しくなりました。
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教えていただいてよかった! (窪庭忠男)
2011-07-09 07:40:07

コンサートにお誘いいただきありがとうございました。
ファンの方がたの気持ちがわかったように思います。
また当ブログへのコメント、「ブンさんとその仲間」というフレーズで注目していただきましたこと、感謝申し上げます。
返信する
感謝!感謝! ありがとうございます。 (中村ブン)
2012-04-17 10:37:25
こういう書き込みがあった事、今更ながら、友人から知らされて
感激しております。アルバム一枚(とり残されて)と4枚のシングルをワーナーパイオニアという所から発売し、鳴かず飛ばずで
それでも止める事が出来ず、スポットらいとからかなり離れた場所で歌い続けて来ましたが、それが出来たのは、みんな、売れてない私をずーと応援し続けてくださった多くの人達でした。
 一昨年、テイチクから「かあさんの下駄」という、長年歌い続けて来た歌が発売され、こんなNHKの大ホールに出演できる日が来るなんて、夢にも思っていなかったことが実現し、昨年末に「ぼけ経」老いの応援歌という本が発売され、
CDも6、7月頃には発売される予定でです。
この年で、また表舞台にでるチャンスを頂きました。
今後ともよろしくお願い致します。感謝!感謝!中村ブン
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こちらこそ、ありがとうございます。 (窪庭忠男)
2012-04-19 02:11:00
友人の「丑の戯言」さんからお誘いいただいて、中野ゼロホールでのコンサートを観させていただきました。
また「知恵熱おやじ」さんからも、たびたびブンさん(失礼、なれなれしくて・・・・)の活動ぶりを聞かされて、親しみを感じておりました。
これから大いに活躍される方と信じております。
福島の被災者のためにも、地道な活動を続けてください。
      ★
ラジオ深夜便で三木たかしが唄った「終恋(しゅうれん)」に、クソッと踏ん張りながら泣けました。
思いがけないコメント、ありがとうございました。
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