さきち・のひとり旅

旅行記、旅のフォト、つれづれなるままのらくがきなどを掲載します。 古今東西どこへでも、さきち・の気ままなぶらり旅。

場末の酒場放浪記 埼玉1

2017年11月20日 | 

 ここは埼玉県北西部、私鉄の急行が止まる駅。かつての宿場の賑わいの名残りが感じられるだけに、尚更わびしさを感じさせる町だ。駅前の旧百貨店は更地になっており、商店街はシャッターの閉まっている店が多い。「呉服店」、「ふとん店」、「お茶屋」、「スポーツ用品店」などの看板だけが残っている。もう暗くなってきて人っ気は全くないが、商店街に低音で流れ続けている音楽が逆に寂しさを誘っている。

 少し歩くと遠くに赤提灯が見える。暗がりでランプに引き寄せられる虫のように、私はその居酒屋に向かって行った。暖簾をくぐると、その恐ろしく場末の焼き鳥屋は意外にも7人ほどのカウンター席が一杯で、空いている隙間に腰を下ろした。どうやら私の座った席をはさんで、それまで右の客と左の客は仲良く話をしていたようで、私が座っても両側から大きな声で会話を続ける。酔っぱらいの大声と双方から飛んでくる唾液に辟易したので、お二人にくっついてもらって、どちらかに席を変わってもらおうと提案した。

       イメージです

 しかし私の意に反して、両側から「とんでもない!むしろ、真ん中で話に入ってもらいたいんですよ!」とさらなる唾液が飛んでくる。これでは逃げようがない。それまで全く聞いていなかった会話に入るしかないな、と観念したとき、右の初老の男が「お仕事は何ですか?」と聞いてくる。飲み屋で「仕事」、これはしばしば「社会的地位」と同義語になっているのだが、その話題は必ず「自分はすごいだろう」という残念な自慢話なのである。

 そういう奴に限って、よくいらない名刺を渡してくる。必ず自分の名前の前とか上に役職が書いてある。私に全く関係ないんですけど。そういうのを交換し合うって、なんだか子供が自分の持っているカードを見せ合って、ゲームのキャラクターの強さを自慢し合っているのと同じだな。いい年こいているだけに、恥ずかしすぎるじゃないか。

 そのおじさんもやっぱりそうだった。「大学は三流だったけど、私がいたのは一流企業!」と最後の単語を強調する。私は心のなかで、三流大学だって立派に勉強してれば偉いだろうし、一流企業にだって山ほどカスみたいな連中がいるぞ?しかも「私がいたのは」って、もう退職してるってことだよね。いまカンケーねーじゃん、と考える。

 左のおっちゃんの話のほうが面白かった。奥さんの愚痴である。奥さんはタイ人だそうだ。なんと学生結婚で、プロポーズしたときには「一年に一回は必ず里帰りさせること」と条件をつけられたとか。「それくらい当然でしょ」と口を挟むと、「ひとりなら30万円で済んだけれど、いまは子供二人を連れてゆくから、50万円もかかるんですよ!」と嘆いていました。

 そりゃ大変だねえ。でもよくよく聞いてみると、そのタイ人の奥さんは立派な企業の正社員で、旦那さんよりも収入が多いそうです。なんだよ、旅費も自分で払ってるってことじゃん。なんだか微妙なノロケというか、自慢話を聞かされたような気分になってしまいました。

 すると右にいた「元一流企業社員」のおっさんが、「私の女房も中国人。相手は再婚だから、前の男の連れ子もいるんです」ときたもんだ。地方の場末の居酒屋で、奇妙にインターナショナルな結婚のシンクロ。「やっぱり毎年、里帰りするんですか」と聞くと、「この20年、一回も帰ってないよ」だとか。う~ん、いいのか?何か訳ありの可能性もありそうだが、特に聞きたくもなかった。あちらもそのことに関しては、ことさら言いたくもなかったようだ。

 向こう側では老人2人が自分の病状をさらけ合っている。

俺はねー、いま週に3回透析なの!(それで飲んでて大丈夫なの?)

俺も透析やってるよー。それと関係あるのか、外を歩くとトイレが近くて困るんだ。

俺もだよっ!買い物なんか、もう30メートルおきに、どこでやるかを確認してあるんだ。
(そこまで短いと、出歩くの大変だよね)

いやあ何か嬉しいな。俺だけじゃないってわかると何か元気になるなあ!
(そこで嬉しくなるもんですかー)

あとね、喉にガンがあるんだよ。
(せっかく相手が嬉しいって言ってるのに、あくまで「勝ち」にこだわるのかーしーら)

まあ、昔の職場の役職競争より、病気自慢のほうが嫌味がないかな?
どうぞお大事に・・・って、それでも飲んで楽しむ人生を謳歌!ですね^^;