伊那市創造館には、井上井月(いのうえせいげつ)の特別展示室がありました。
彼の直筆の短冊などが展示されていました。残念ながらそこは撮影禁止。是非
直接見ましょう^^;
井月は新潟出身で、元は武士だったらしいのですが、30代半ばでふらりと伊那に
現れ、それからはこのあたりでずっと漂泊の人生を送りました。教養があって書に
秀でており俳句を詠むので、あちこちで招かれて食事や酒、宿泊の施しを受けて
暮らしていました。伊那はそういう懐の深さがある土地だったのです。
2011年に「ほかいびと」という映画にもなりました。それは「物乞い」=「乞食」
という意味もありますが、「ほかい」とは、元来は神を祝福することを意味しま
した。それが祭りや酒宴のときの祝いごとも指すようになり,門ごとに祝言を
述べて歩き,報酬として米や物を得る人々も「ほかいびと」といわれたそうです。
つげ義春の「無能の人」にも井月が描かれています。この映画が作られたとき、
つげは井月を「ほかいびと」というよりは、「蒸発した人」という視点から注目
したと言っています。つげ漫画の流れから見れば、わかる気がしますね。
井月は心の師と仰ぐ松尾芭蕉の『幻住庵記』を暗記していて、酔っ払ってとある店先で、
そこの唐紙に約1300字を全部書いたそうです。それが(複製?)ここの展示室に置いて
ありました。この『幻住庵記』の筆跡を見た芥川龍之介は「入神」と絶賛したとか。
いまでいう「神降臨」ですね。山頭火も井月を尊敬し、山口県から伊那まで井月の
墓をお参りに来たそうです。
「世捨て人」「ほかい人」「乞食」「俳人」、いまでいえば「ホームレス」。井月は、
酔って機嫌のいいときには「千両、千両」と言ったそうです。お金なんて関心なかった
くせにね(^益^)w