『彼は語らない』というか『彼は語れない』
白い石膏の顔面、耳まであるデスマスクはないと思うけれど、デスマスクである。(デスマスクを想起させないために耳をつけ、『天才の顔』では首をつけている)
唇に差した赤・・・これは言葉を示唆していると思う。
『初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は初めに神と共にあった、すべてのものは、これによってできた。』(『ヨハネによる福音書』より)
言葉は口から発せられる、しかし、すでに語ることができないデスマスク。
背景は規則正しく配列された点描であり、連続を可能とする暗がりがある。正確な配列、直線というものは自然界には存在しないから、人工・あるいは精神界の空間であるよりほかない。
背後の女(あるいは男)の眼はしっかり見開き、頬は赤い。明らかに生きている人である。二者を遮る円盤形のものは何を意味しているのだろう(地球かもしれない)ここには確かに遮蔽された空間が在る。円形のものに突き刺さった硬質の棒(パイプ)は白い顔(デスマスク)の辺りを始点として立ち上がり、ここから直角に背後に折れて延びている。明らかに人智による何か(思考/構造物)を最短の条件で示唆している。
目前の石膏(デスマスク/神)を凝視する人間は、ぴったり背後に控え、堅く結びついているという印象を与える、つまりは従順である。
女(あるいは男)の背後の壁は木目の顕著な木材であり、木の特質としては自然であることと、その木目(年輪)にあり、歳月の暗示だと思う。
細い筒状の棒(パイプ)は背後の空間を突っ切り、無窮の空間へ延びているかの印象がある。
白い顔(デスマスク)から始まっていると言えるかもしれないパイプ。これは《伝達》を意味するのではないか。
彼は語らない、しかしその意志はどこまでも(未来永劫)伝えられて行くかの暗示。仮に白いマスクを神とするなら背後の人は従順な信者であり、硬質な丸い穴の空間を持つ棒(パイプ)は、語り伝えられる伝承/伝達を意味する。
『彼は語らない』、しかし、『彼は語り続ける(あたかも永続的に)』という堅い信奉を描いている。けれども、その基盤は空に浮いている、そして永久に延び続けるパイプなどというものは存在するだろうか。確信だけが存在を確かなものにしていると言えなくもない。
(写真は国立新美術館『マグリット展』図録より)
白い石膏の顔面、耳まであるデスマスクはないと思うけれど、デスマスクである。(デスマスクを想起させないために耳をつけ、『天才の顔』では首をつけている)
唇に差した赤・・・これは言葉を示唆していると思う。
『初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は初めに神と共にあった、すべてのものは、これによってできた。』(『ヨハネによる福音書』より)
言葉は口から発せられる、しかし、すでに語ることができないデスマスク。
背景は規則正しく配列された点描であり、連続を可能とする暗がりがある。正確な配列、直線というものは自然界には存在しないから、人工・あるいは精神界の空間であるよりほかない。
背後の女(あるいは男)の眼はしっかり見開き、頬は赤い。明らかに生きている人である。二者を遮る円盤形のものは何を意味しているのだろう(地球かもしれない)ここには確かに遮蔽された空間が在る。円形のものに突き刺さった硬質の棒(パイプ)は白い顔(デスマスク)の辺りを始点として立ち上がり、ここから直角に背後に折れて延びている。明らかに人智による何か(思考/構造物)を最短の条件で示唆している。
目前の石膏(デスマスク/神)を凝視する人間は、ぴったり背後に控え、堅く結びついているという印象を与える、つまりは従順である。
女(あるいは男)の背後の壁は木目の顕著な木材であり、木の特質としては自然であることと、その木目(年輪)にあり、歳月の暗示だと思う。
細い筒状の棒(パイプ)は背後の空間を突っ切り、無窮の空間へ延びているかの印象がある。
白い顔(デスマスク)から始まっていると言えるかもしれないパイプ。これは《伝達》を意味するのではないか。
彼は語らない、しかしその意志はどこまでも(未来永劫)伝えられて行くかの暗示。仮に白いマスクを神とするなら背後の人は従順な信者であり、硬質な丸い穴の空間を持つ棒(パイプ)は、語り伝えられる伝承/伝達を意味する。
『彼は語らない』、しかし、『彼は語り続ける(あたかも永続的に)』という堅い信奉を描いている。けれども、その基盤は空に浮いている、そして永久に延び続けるパイプなどというものは存在するだろうか。確信だけが存在を確かなものにしていると言えなくもない。
(写真は国立新美術館『マグリット展』図録より)