続・浜田節子の記録

書いておくべきことをひたすら書いていく小さなわたしの記録。

マグリット『海の男』

2017-05-05 07:10:30 | 美術ノート

 『海の男』

 まさに、海(海岸線)に立つ男である。しかし海に背を向け、切れ切れの室内の断片の上にいる。
 脚下は左右別れる床面に立ち、手は何かのスイッチを入れようとしている。
 顔は不明な模様のついた板に置換されている。
 裸体だが、ぴったりとした黒の着衣に包まれているようである。

 これらはどんな意味を示しているのだろう。海はどんより暗く水平線も定かではない。ちなみに海はフランス語では女性名詞である。海を女性とみれば、男は海にいながらにして、海に背を向けていることになる。

 男の立ち位置は安定しているように見えるが、二つの床面が離れていけば大股を広げて転倒する危機を孕んでいる。即ち日常の危機を暗示しているのではないか。手に掴んだ取っ手は何かを始動させる予感がある。
 この顔を隠した匿名の男は裸体でありながら性的な情感は皆無である。海(女)に背を向け、筋肉も露わに力強く発信しようとする何かは仕事などへの情熱かもしれない。
 顔に関していえば、唐草のような模様はどこまでも連鎖し延びていくパターンの一つであり、永遠や持続の象徴でもあるが、ここでは匿名性の提示に留めるものという印象である。

 日常(家庭)に潜む亀裂の不安には気づかず、男は胸を張り、日常の外へ飛び出そうとしている。
 海(女)の至近にいるにも拘らず、海(女)や日常(家庭)の外へ取っ手を下ろして、向かおうとしている者である。

 飛躍して考えれば、海の男はマグリットの父かもしれない。


(写真は『マグリット』西村書店より)


『城』2630。

2017-05-05 06:21:43 | カフカ覚書

ベルトゥフは、これを大目に見てくれました。この人は、以前は仲よしで、また、父のいちばん大切なお得意さまのひとりだったからです。


☆ベルトゥフはこれを許しました。かつては父(宿命)と親しくしていたのです。誠実に偵察するにふさわしい人だったからです。