『陽光に舞う塵埃、ストランゲーゼ30番地』
古い建屋の室内を真正面から描いている。美しいというより神聖な空気感が漂う窓。刻まれた時間は荘重な雰囲気を醸し出している。
窓からの光の差込み、床面に落ちた光は部屋の静謐さを物語り、気配のざわめきを残して沈黙している。語るべき言葉はないのに震撼と胸打つ空気感がある。
光は東から西へ、床面は逆に光を捉えて回転する。長い時間の経過は春夏秋冬、日々の差異こそあれまったく同じリズムで年毎に繰り返し刻まれてきた恒なる光の影である。
光が空間(室内)を這う、その息遣いはこの家の歴史を空無に帰している。確かに人がいて、確かに幾多の物語が刻まれた部屋、今は静かな佇まいのみが画家を迎え、対峙している。なぜならこの景は、どうしても深夜の月影のような気がしてならない。昼間なら窓外も室内も明るいのではないか。
満月の光度を彷彿とさせているこの景は、日本でいう中秋の名月を隠している。この平面的な絵は天空の月をも視野に入れた大きな絵であり、時の刻みをも見せている。(月が天頂にあれば影は入らない)斜めに入る光の先を延長した先に月は静かに輝いているはずである。
眠りの中の月影、ひっそりとした室内は静かに語らうのである。
写真は日経『デンマーク 室内の豊かさ』(下)より