『自動販売機』
窓外は暗闇、天井の灯りが反射する大きなガラス面は店内の広さを指定する。おそらく客はこの女性一人なのではないか。傍らの暖房器具、目深な帽子・コート・手袋、冬である。
寒さの夜更け、彼女はコーヒーカップを手にしている。飲むというよりはそのまま動きを止めているように見える。
何か考えているのだろうか、ぼんやりと・・・。素足に見える足が生々しく、防寒の着衣にしては胸がはだけている。
背後の脚付きガラス容器に盛られた真っ赤な果物は彼女の心理に反応する。全体、暗く打ち沈んだ気配の中の山に盛られた赤い果物は彼女の心理を象徴している。
素足、胸の素肌、赤い果物・・・寒さの中の劣情、情熱を抑えているのかもしれない。秘かな思いは彼女の中を巡る。
淑女である、決して知られてはならない秘かな思い。彼女自身ですら気づかない感情かも知れない。
『自動販売機』、この画は《彼女の無意識》を描いているのではないだろうか。
写真は『HOPPER』(岩波 世界の巨匠より)