白と黒の対比を黄色の面と女の肌色が緩和させている。女の頭上は白い壁面であり、静謐と無音、寂寥と空白が漂う。
着衣を脱いだ下着姿の女はホテルに到着したばかりかも知れない。ソファにかかるドレス、棚の上の帽子、脇に置かれたヒールの靴。二つの大きなボストンバックは遠距離への長い旅行を想起させる。ベッドは未使用のままであり、女は手紙を読んでいる。
この手紙こそ絵の主題である秘密を握っている。読み手の肩は心持ち落ちており、手紙の内容を彷彿とさせる、落胆・・・。
駆け落ちだろうか、(この部屋に男の持物は皆無。同時にこの部屋に入らないのには訳がある)待ち人は来ない。
この部屋に来れない理由を報告されているのではないか。憤りはなく、失意の翳りが垣間見える女の横顔に、真意を明白に読み取ることはできない。右上の金色にも見える黄色の色面(壁)には薄いカーテンが掛かり、女の赤い下着には隠された淫靡な情熱が垣間見える。
それらは、手紙の内容により瞬時、硬直したかのようである。投げやり…諦念の交錯する無念。
時は流れている、不可逆な時の流れを遡ることはできず、ホテルの部屋の秘密を知るものは誰もいない。
写真は『HOPPER』(岩波 世界の巨匠ホッパー)より