★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

津波映画の後味

2011-10-16 20:42:26 | 映画


この前韓国の映画「TSUNAMI」をみたのだが、──あまり集中してみていないのでおおざっぱな印象だけど結構よかった。私は、大震災の津波以降、津波や大災害を描いた作品を努めて見たり読んだりするようにしている。不謹慎だとかいいつつ目を背けているよりは、作品に現れている我々の思考の習慣について考える方がいいと思う。「がんばれニッポン」とか「復旧・復興がんばれ」の方が、他人事の匂いが濃厚すぎてよっぽど不謹慎だ。

東日本大震災以前の映画で、スマトラ沖レベルの大地震が、対馬あたりで起こったらどうするかという映画である。

津波の描写やそこで逃げまどう人々の描写、津波の後の誰かの演説シーンとかも含め、どっかでみた感じのショットが多く、「ディープインパクト」や何やらの影響が濃厚であるように思われる。でもまあいいや。やりたい放題が韓国映画の真骨頂であろう。が、……東日本大震災の「実写」を見た我々にとってははっきりとわかるが、これは津波の波じゃない。映画で描かれた「隕石衝突」による波である。波の高さが100メートルか……。冗談じゃない。

ドラマでは、海難救助隊のイケメンが大活躍、日本でもそんな映画があった。「日本式仲良くしようナルシズム」爆発でみていられなかったが……というか途中で寝た。

それはともかく、旧約聖書の世界観濃厚のハリウッド洪水映画に対して、この映画は、「悪い奴は流れてしんでよい」のハルマゲドン的怨恨ではなく、不謹慎な比喩だが「過去を水に流す」というテーマが追求されている。自分勝手で離婚してしまった過去、開発業者に地元を売ろうとした過去、惚れた女の父を仕事上の判断ミスで死なせてしまった過去、貧富の差による失恋の過去、他にもあったような気がするが、そんな過去を水に流して新たな段階に進めるきっかけが津波だったのである。ご都合主義もいいところだが、私は上のハルマゲドンよりましな気がする。嫌らしい怨恨がない。コミュニティーの大事さとか、再生とかいう観点でみても、「地元意識」のある人間こそ、いざとなりゃほとんど赤の他人さえもを助けるといった事態が強調されていたから、宮台真司などが喜びそうである……。現実の韓国でもこうはなっていないと思うし、理想は理想だと思うが、日本ではこんな物語さえも作られる見込みがないのではなかろうか。映画の中ですら我々は言論の自由が奪われており、役者達が社交辞令をしゃべらされている。これでは鬱屈が堪るばかりで、その結果、その鬱屈をはらすのが目的となり、水に流す余裕はない。今回の地震の後だって、津波によってむしろルサンチマンの大洪水だったではないか。過去を水に流すところか、過去が思い切り復活してくるのが我々の国であった。

とはいえ、韓国の内実が映画のようであるとは限らない。我々の幽霊のような抑圧ではなく、本物の抑圧が行われているのかも知れないからだ。私は想像しかできないが、そんな気がする。韓国の映画では、この映画でもそうだったように、女の子が優男をぶんなぐったりする場面が非常に秀逸だが、これは現実にぶん殴られなければどうしようもない男がたくさんいる証拠のような気がする。韓国だけではない。

15頭身への恋

2011-10-16 19:27:20 | 漫画など


この前ブックオフで適当に手に触った物を買ってきたのが、島津郷子の『愛色のオブジェ』。80年代初頭の作品だと思う。

いま読むとすごい作品だった。あるいけすかない男(高校生・さっき物差しで計ってみたのだが15頭身でした。本当にありがとうございました)になぜか惚れる女の子。彼は義理の母親に惚れた経験があり、そのお義母さんの絵を不気味な絵で描き、美術室にほったらかしておくような奴である(ココシュカの「風の花嫁」を思い出させるねえ……)。女の子関係で評判が悪い。で、そいつに惚れたウエスト30センチぐらいの(さっき計ってみたのだが、最小3㍉の時があった)女の子は、その絵を見て更に惚れてしまうだけでなく、その絵を自分の部屋に飾ってしまうのだ。それで、あるひ(案の定)美術室でその15頭身に強制的に関係を持たされてしまった彼女であるが、退学になりかけた彼を擁護したりするのだ。

わたしはここまで読んだ時に、「あこの女の子は妊*するんじゃないか」(←「彼氏彼女の事情」に毒されていました。申し訳ありません)と思ったが、こういう私のくだらない発想をものともせず、そこでなんとなく高校時代終了。二人は別れ別れに。

美大に入った彼女は喫茶店である絵を見つけるが、そこに描かれていたのは自分だった。描いた奴は、同じく美大に入学してた15頭身。そこに案の定15頭身が入店してきたので、彼女は可愛く泣きながら「神様……感謝します……きょうからまた 彼を追いかけることができる」(愛色のオブジェ 完)

……暗黒面を持った男に惚れて、自分から積極的にどんどん暗黒面に堕ちて行く女性は、少女漫画ではよくあるような気がしていたが、改めてこういうのを読んでみると怖い。(太宰の「斜陽」にここまでの怖さはないかも……。)ここまで後先考えない世界が描かれるのは、現実に、後先考える奴ばっかりがいたからこそなのか。それとも30年後の我々が恋愛に対してもきれい事の処世を弄し後先ばっかり考える人間になってしまったから、そう思うのか?私は、男も草食系になって自己保身に走っているが、女性も草食系になっているのではないかと思う。私が体感しているのはそんなことである。女性が強くなり男性が去勢されているとはとても思えないのである。

15頭身……