★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

見つけられた手紙

2019-08-11 23:38:33 | 文学


紙の香などいと艶に、ことさらめきたる書きざまなり。二重ねにこまごまと書きたるを見たまふに、「 紛るべき方なく、その人の手なりけり」と見たまひつ。

源氏は柏木(衛門督)から女三の宮への手紙を見つけてしまいました。手紙というのはなぜか見つかるもので、――なんだろう、東氏のいう「誤配」の一種かとも思うのであるが、とにかく見つかってしまうのだ。ポーの「盗まれた手紙」も手紙は案外見つかる、という話であった。「Xファイル」ではないが、「手紙は常にそこにある」からであった。貴婦人から手紙を盗んだ大臣Dは、手紙を隠していなかった。そのことを見抜いたデュパンに見つけられてしまう。

大臣は彼女を自分の権力にしたがわせてきた。今度は彼女のほうが彼をその権力にしたがわせるんだ。――なぜかと言うと、彼は手紙が自分の手にないことに気がつかないので、相変らずあるようなつもりで無理なことをやるだろうからね。こうして必ず彼はたちまち政治的破滅に陥ってしまうだろう。


デュパンのこの言葉は不明瞭で「そんなもんかな」と思うが、光源氏の場合は、手にした権力で柏木を滅ぼしてしまう。相手の秘密を知ってようといまいと、それが問題になるのは、ある程度お互いが同等な場合である。光源氏の場合は、彼の秘密がバレても結局は生き延び、柏木が自分の妻を寝取った秘密を知ったときには、彼を許さない――というか、源氏もどこかしら自分を弱者と認識しており、自分がどのような化け物なのか分かっていないので、結局、彼の力は柏木を許さないことになってしまったのであろう。知らんけど……。

過ぐる齢に添へては、酔ひ泣きこそとどめがたきわざなりけれ。 衛門督、心とどめてほほ笑まるる、 いと心恥づかしや。さりとも、今しばしならむ。 さかさまに行かぬ年月よ。老いはえ逃れぬわざなり


柏木は、これを聴いて病気になってしまう。しかし「老いはえ逃れぬわざなり」も確かで、源氏ももう少しで……。


最新の画像もっと見る