

「はじまりは国芳-江戸スピリットのゆくえ」展を横浜美術館で見てきた。平日ということもあり、ゆっくりと見学させてもらった。横浜美術館協力会会員(年会費5000円)なので入場料は無料。
私は、歌川国芳という名は知っていたが、江戸末期の浮世絵師ということと、猫が好きで猫の絵があること、この程度の知識しかなかった。
この展覧会、国芳一門の展覧会というような感じで、一門としての弟子たちが明治以降にどのような展開を見せたか、が大きな軸となった構成であった。
展示場入ってすぐに目に飛び込んでくるのは、「相馬の古内裏」という題の極めてリアルで大きな骸骨が小さな人間を覗き込んでいる不思議な絵。山東京伝の読本に基づき描かれた勇士大宅太郎光国と滝夜叉姫の二人の対決を覗き込む骸骨、この骸骨がどのようなもののシンボルなのかはわからないが、物語にたぶんに通低する死のイメージがシンボライズされていると私は理解したが、どうだろうか。
この骸骨、極めてリアルである。多分当時の人々は日常に死を見てきたであろうから、骸骨についてはかなりリアルでしかも身近なイメージを持っていたと思う。それを踏まえてこの絵を見ると、現代の私たちとは比べ物にならないくらい近い認識を持っていた、物語を演ずるものと見るものとが共通に抱いていた死のイメージが、ぐっと迫ってくるようである。現代の私たちからは想像も出来ないくらい死はもっともっと身近なものであったのであろう。物語自体も死のイメージが横溢したものだったような気がする。
江戸の絵画、特に浮世絵の世界から私はとてつもない死のイメージが迫ってくるように感じる。国芳の絵の世界はこの私のイメージをさらに強固にしてくれた。
さて国芳の一門の系図を見ると、月岡芳年、川鍋暁斎の名が出てくる。月岡芳年は金太郎が鯉にしがみついている絵が有名だし、国芳の弟子であったことは承知をしていた。しかし川鍋暁斎が最晩年の弟子であったことはまったく知らなかった。今回は暁斎の絵もいくつか展示されていて楽しかった。
また五姓田義松と鏑木清方が共に孫弟子であることも初めて頭の中で関係付けられた。
私が気に入った特に心を惹かれた作品は、川瀬巴水という鏑木清方門下の「東京十二題こま形河岸」という版画。これは葉書になっていたので購入した。竹の束の間から少しだけ覗ける川の景色と空の雲、手前の馬車の配置がとてもユニークである。配色の妙も楽しい。

今回の展示、私のように浮世絵に知識もなく、それほど興味のない人間にも面白い企画だったと思う。無料なのでもう一度足を運んで見たいと思う。