午前中は「犬の記憶」(森山大道)を読む。始めの2編「陽の当たる場所」と「壊死した時間」、最後の方の2編「写真をさようなら」と「そして光と影」、ならびに「あとがき」。
「同人誌〈PROVOKE〉は‥二年足らずで終刊した。その2年の歳月は、70年安保へ向けて激動する、いわば突出した(ラディカル)政治の季節とぴったりと符合していた。‥いかなる思想を挑発しえたか、いかに写真を変革しえたのか、またメンバーがそれぞれ自己を挑発しえたのか、僕には何の結論もない。おそらく永遠に結論など出ないだろう。‥1970年に〈PROVOKE〉が解散したあと、‥時代にとっても自分にとっても、どこかひとつ「終わったな」という思いだった。‥現実との間に相対的な肉ばなれを感じ始めていた。その間隙がひめがっていったとき、僕には自分を襲う喪失感が何であったのかがはっきり見え始めてきた。‥僕を襲い続けていた喪失感とは、僕のあまりにも遅すぎた青春の終焉のことであった。」(写真よさようなら)
「僕にはつくづくあるひとつの感慨が在る。それは当時をあまりに無我夢中でいきていたためにかえって実感が淡かったものとしか思えないが、1970年を頂点とする、60年代後半の数年間の時代の存在である。その時代の数多くの記憶は僕にとって、この手から逃げていった〈哀しい鳥〉を追う口惜しさとしてあり続けている。‥かかわったひとつの時代に、かくまで愛惜を持ちつづけることにおいて僕は以て瞑すべきかもしれない。」(あとがき)
1938年生まれ、私よりも13歳年上の駆け抜けた1945年から1970年、私の体験と感慨と並べながら読み進めたい。